旅を豊かにする本

封印の島  ヴィクトリア・ヒスロップ  (ギリシャ)

この本(The Islandの著者と舞台の背景

著者:ヴィクトリア・ヒスロップ(Victoria Hislop) 1959年生まれ イギリス人作家。デビュー作『封印の島』は、2007年度「ブリティッシュ・ブック・アワード」の新人賞を獲得している。

この本の舞台、スピナロンガ島の背景
スピナロンガ島は、クレタ島の東部に位置し、ヴェネツィア様式の城砦がそそり立つ小島。1903年から約50年間、ハンセン病患者のコロニーとなった。その間に、クレタ島はギリシャに統合されるも、第二次世界大戦下では、一時、ドイツに占領される。しかし、ゆいいつ、スピナロンガ島はコロニーのため、それを免れた。

この本の見どころ、感じたこと

自分の過去を話すことを拒み続けた母ソフィア。娘のアレクシスは、そんな母の過去を求め、クレタ島の村プラカへ足を踏み入れる。そこで知ったのは、衝撃の家族の物語と、それにまつわるスピナロンガ島の歴史とそこで暮らした人々のことであった。

”病が見つかれば、島へ送られ、もう2度と、家族には会えない”。だから、病気であることを、必死に、家族ぐるみで隠した、という。

島へ送られ、絶望の中、死を待つしかない状況で、どうやって生きろというのだろう?
しかし、未来が見えない中でも、人は、視点を変えて、それでもまだ、自分は誰かの役に立てる、ということを喜ぶことができる境地に立てるんだ、と、この本は示してくる。

風向きが変わるのは、アテネの病院の劣悪な環境に、先頭に立って抗議してきたインテリ集団の患者たちが、島に送られてきてからだった。
彼らは、頭脳と技術力、有力者とのパイプをフルに使って、給水、家屋、発電、金銭などの問題をクリアしていく。やがて、病を通して固く結ばれた島民たちの生活は、周囲の村が及ばないほどの、目をみはる発展を遂げていくのであった。

一つ、一つの問題にチャレンジし、与えられた日々を、少しでも、より良い人間らしい生活ができるよう、最善を尽くして生きよう、という彼らの姿に素直に感動する。”奇跡”という言葉が浮かんでくる一方で、インテリ集団がこの島でここまで力を発揮できたのは、アテネでのあまりに酷い生活を経験したから、と言えるのかもしれないと思った。

しかし、それだけではない。一人の若い女性マリアの物語が、絡んでくる。ハンセン病にかかってしまい、破婚になったことがきっかけで、相手からは本当には愛されていなかったことを知るマリア。年老いた父親を一人残して、島の門をくぐっていく。

マリアの心のひだを通して、彼女の家族、人間関係、島の暮らしなどが丁寧によく描かれている。慎ましく、家族思いで、働き者のマリアが、島の暮らしで自分の役割に気づき、精一杯、生きていく。そんな彼女が幸せを掴まないわけがない!と思いながら、読み進んだ。

それから、メインのストーリーからは外れるが、この本は、ドイツ軍侵攻に抗ったクレタ島の人々についても、少し触れている。ギリシャで、ゆいいつ、ドイツ軍に抵抗したのは、クレタ島の人々であった。

そして、ストーリーだけでなく、この本が興味深いと思ったのは、クレタ島の自然や風習、料理、食べ物などにも丁寧に触れているところだ。もし、クレタ島を訪れるならば、そういった細部も、参考にすると、より旅が面白くなるだろうと思う。

最後に

物語の最後で、冒頭に出てきたアレクシスの母、ソフィアが隠してきた家族の物語のパズルは完成する。家族4世代が絡む、読み応えのある大作である。「大河ドラマ」級の話だったな、と思っていたところ、やはり、ギリシャではTVドラマ化されていた。

 

興味があれば、「ヴィクトリア・ヒスロップ」のウィキペディアから彼女の公式ウェブサイトへ飛び、作品に関連した事柄をさらに知ることができる。