旅を豊かにする本

ギリシャわが愛  メリナ・メルクーリ (ギリシャ)

著者について

著者のメリナ・メルクーリ(Melina Mercouri)はギリシャ・アテネ出身の女優。代表作「日曜はダメよ(Never on Sunday)」(1960年)で主演を務めカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞。

この本(I Was Born Greek)の背景

1967年クーデターによってギリシャに軍事政権が成立。反対者が捕らえられる中、メルクーリも戦いに立ち上がるが国籍を剥奪され国外追放される。この本は1971年追放中の身であるメルクーリが書いたもの。

現代の私たちを知ってほしい!

華々しく世界史の表舞台に登場していたギリシャの絶頂期は紀元前の大昔のことだ。ギリシャと言えば、我々は遠く時を隔てたその頃へ思いを馳せるか、エーゲ海の美しい島々を思い浮かべがちだろう。

しかし、当のギリシャ人はそのような外国人たちに何を思うのだろうか?

この本を読むと率直なメルクーリによって、ギリシャ人の心の奥底を知ることができるだろう。また、この本が書かれたのはずいぶん前になるが、それでもギリシャの音楽や踊り、映画などの芸術や自然について愛情たっぷりに語られる様子や、自分たちギリシャ人の特徴をユーモアを交えながらつづっている様子から、メルクーリを通して我々の知らなかったギリシャを感じることができるだろう。

軍事政権下のギリシャ

この本がこの世に生まれたきっかけは、先述の「この本の背景」にある通りである。軍事政権下におかれるとはどういうことか、どのように自由をうばわれ、どのように人々は恐怖に突き落とされ、どのように頭や心をマヒさせられてしまうのか、自国の文化や芸術を禁止され、心のより所を失うとはどういうことか、メルクーリが語ってくれる。

また、このような軍事政権の背後にいた巨大勢力(国)についてもはっきりと書かれている。

4年目

いかに強いメルクーリとは言え、彼女は人間だ。国外追放4年目。故郷の土を踏みたいばかりの狂おしい心情がこの本に吐露されている。先が見えないというのは誰をも不安にさせる。彼女の心は今にもちりぢりに引き裂かれんばかりだ。

 メルクーリの問いかけ

「そもそも抑圧者たちの政権を許したのは誰だったのか?」

メルクーリの視線は外側だけでなく、自らの内側にも注がれる。このメルクーリの鋭く深い洞察力、内省によって読者は遠いギリシャへ向いていた視線を、一気に自らの胸の内へ戻されることになるだろう。なぜならそれは戦いの歴史を歩んできた我々人類の共通の問いかけのように思われるからだ。

 最後に

この本には詳しく書かれていないが、ざっと調べてみると紀元前30年~1830年までギリシャは他国の統治下にあったことがわかる。なんと1860年間だ。それ以後も他国の影はちらついた。

ギリシャの多難な歴史を知れば、ギリシャ人がどれだけ自由に対する気持ちが強いか、ギリシャの国旗が高く掲げられ、風にたなびく様子をどれだけ誇らしい気持ちで見上げるのかを知るようになるかもしれない。

 

軍事政権は1974年に崩壊。彼女は7年ぶりに無事帰国した。