旅を豊かにする本

イタカ(カヴァフィス全詩集)コンスタンディノス・P・カヴァフィス

この詩を知ったきっかけ

「イタカ」という詩を知ったのは、いつか、ギリシャに行ってみたい、という気持ちが、限りなく募っていた頃のこと。ギリシャ情報を発信していたブログ(イタカを心に船出せよ)の中で、紹介されていました。(管理人さん自身が詩を翻訳されています)

この詩は、「イタカ」へ出発しようとする、旅人に向けた「はなむけの詩歌」です。

志を高く持つことで、怒り猛(タケ)る神や、恐ろしい怪物の幻影に惑わされることはないんだ、と言っています。

そして、旅は急がないほうがよい、旅を楽しんで、たくさんの経験をして、そして最後に、旅で得た富をもって、島に錨を下ろせばよい、と。

イタカ(Ithaca)とは

イタカとは、ホメロス(紀元前8世紀末の吟遊詩人)の叙事詩『オデュッセイア』に登場する主人公、英雄オデュッセウスの故郷、とされています。叙事詩の中では、オデュッセウスのトロイア戦争での活躍(トロイの木馬の考案など)や、イタカ島へ帰郷するまでの苦難(怪物たちとの闘いや、神々の怒りによる妨害の数々など)が語られています。

ところが、神話の中のストーリーと思いきや、なんと、そのイタカ島(イタキ、もしくはイタケ島とも言う)は、実際に存在するのです。古代から、イオニア海に浮かぶイタカ島が、オデュッセウスの故郷として、人々の間で信じられてきたそうなのです。

たいへん興味深い話でありますが、しかしながら、カヴァフィスの「イタカ」という詩に心揺さぶられる理由は、別のところにあると思います。

それは、詩を読んだ人、それぞれの「イタカ」があるからです。イタカの言葉の裏には、この詩を読んだ人の数だけ、意味が隠されているからです。まるで玉虫色のように、見る角度が違えば、異なる色合いが浮かび上がってくるように、人それぞれの見方によって、この「イタカ」という詩は、いくつもの解釈ができるのです。

人生という旅路において、故郷「イタカ」が何を意味するのか、それは各自が詩を読んで感じることです。たとえ、おぼろげであったとしても、どこか懐かしいような、深いところで魂が揺さぶられるような気がするのは、わたしだけではないと感じます。

カヴァフィス全詩集

「イタカ」に深く感銘したわたしは、さらに「カヴァフィス全詩集」を読んでみました。神話や歴史を題材にしたものだけでなく、人生の一場面を、鋭く切り取った辛口なものや、愛欲をテーマにしたものもあり、人間の多面性を改めて感じました。

わたしは、あまり想像力が豊かではないのですが、カヴァフィスの手にかかると、神話や遠い昔の歴史物語にたましいが宿って、たちまち息を吹き返し、登場人物の生々しい感情が、自分の胸の内に鮮やかに蘇ってくるような、そんな感じがしました。

中でも、「アキレスの馬」は涙なしには読めません。この作品の一部は、ホメロスのイリアス第12歌の換骨奪胎(カンコツダッタイ)だそうで、紀元前の、遠い昔の詩歌に、こんなにも感情を揺さぶられるものなのか!とただただ、驚愕するばかりです。

カヴァフィス(Kavafis)について

今から158年前の1863年、エジプト、アレクサンドリアに生まれる。ギリシャ人商人の子。イギリスから経済的な理由でエジプト、アレクサンドリアへ移住するも、支配国(イギリス、フランスなど)への反乱が勃発し、トルコ、コンスタンティノープル(現イスタンブール)へ一時避難。その後(イギリスのエジプト占領後)アレクサンドリアに戻り、定住。母国語の英語のほかに、フランス語、ギリシャ語、アラビア語、トルコ語などを知っていたという。

 

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