※Cさん・・・前日のミケーネ遺跡見学の際、ナフプリオン~ミケーネ間のバスで行きも帰りも一緒だった。なぜか、Cさんの容姿が鮮明に記憶に残り、それ以降、さまざまな場所で、Cさんを見かけるのだった。そして、本日、エピダウロス遺跡見学でも、ナフプリオンからCさんと同じバスであった。
バス停は…どこかの村?!
遺跡見学の最後を劇場で締めくくった後、わたしは大満足してバスターミナルに戻ってきた。周囲には、小腹を満たせるような屋台もあり、あとは、”帰りのバスを待つだけ”という、リラックスした雰囲気を楽しむだけだった。
ふぅー!
一息つくも、なぜか、バスターミナルに立つ看板に、目が吸い寄せられた。「バス停の場所が時期により変わる」という内容であったのだが…。
わたしは、事前に、バスの時刻表冊子を見ていたので、10月1日~5月30日までは、バス停が遺跡から1.5キロ離れたカフェになることを知っていた。よって「今日は、5月31日だから、ここ(遺跡)から、帰りのバスが出るよね~♬」と安心しきっていた。ところが…みるみるうちに自分の顔が青ざめていくのがわかった。
なんと、バスターミナルの看板には「10月1日~5月31日までの期間、バス停は、遺跡から1.5キロ離れたカフェになる」と書いてあったのだった。
うっそーーーー!!
時刻表の冊子には「10月1日~5月30日まで」と書いてあったよね?!
ガーーーーーン!!
信じられない!! と思うも、周囲のお店の人々に、今日、バスが遺跡から出ていたかどうか、を、尋ねてまわった。彼らなら、1日、ここ(バスターミナル周辺)にいるのだから、わかるだろうと思ったが、答えは「知らない」だった。
え…?!
わたしは唖然として、しばらくボーっとしてしまったが、とにかく、頭を切り替えなくちゃ、と、遺跡の事務所の人ならば、何かしら知っているだろうと思い、遺跡の入口へ戻り、チケット売り場の女性に声をかけてみたが、やはり「知らない」とのことだった。
カフェまで1.5Kmということは、単純計算で徒歩23分かかる。しかしながら、まったく見当もつかないエピダウロスの、どこかの村にあるカフェへ、簡単に歩いて行けるとは思えなかった。場所さえわからない。そして、バス発車まで、時間はもう40分もなかった。
数時間後に次のバス(最終バス)もあったが、この暑さの中待ち続けるなど、わたしには、とてもできそうになかった。
午前中、ここ、エピダウロス遺跡に来た時、バスを降りる際に、バスの運転手がCさんに注意を促していた姿が頭の中でよみがえり…、あれはきっと、バス停の場所を案内していたに違いない、と思った。あの時、何かあれば、あとで誰かに尋ねればいいか、と、スルーしてしまったことが、今さらながら、悔やまれるのであった…。
女神登場
もう、どうして良いかわからず、刻々と時間が迫りくる中、バス停となるカフェの場所もわからない、と、チケット売り場の女性に状況を打ち明けたところ、なんと、「じゃあ、車で村まで送ってあげる。大丈夫よ、5分くらいだから」と、彼女は明るく笑って「ちょっと待ってて!」と姿を消した。
えええええぇぇぇー―――!
わたしはあまりの親切に驚いて、ただただ、お礼の言葉を、何度も何度も唱える事しかできなかった…。
初めての会話
わたしは、ここでなぜか、彼女の姿が消えるか否かのタイミングで、さっと外に飛び出し、走り出した。もちろん、すぐに戻るつもりであったが、なぜか、大事なことを見逃しているような…そんな気がしたのである。
そして、遺跡のバスターミナルが見えてくると…
ああ!(なんと)
Cさんがいるではないか!!
Cさーーん!!(心の中の叫び)
なんと、ナフプリオンから同じバスだったCさんの姿が、わたしの目に飛び込んできたのである。一方的にわたしがCさんを知っているだけで、これまで話をしたことなど一度もなかったが、もう、なりふり構っている場合ではなかった。
わたしは単刀直入に「すみません(失礼ですが)、ナフプリオンに戻られますよね?」と、Cさんに話しかけた。普通、見ず知らずの人に、いきなりそのようなことをきかれたら「アナタ、ナンデスカ?!」と驚いて、言葉が出てこないと思うのだが、彼は顔色一つ変えず、落ち着いた様子で「イエス」と答えた。わたしは間髪を入れず、ナフプリオン行バスの出発地を彼に確認した。すると「ここだよ、バスの運転手が言ってたじゃない?」と、彼は穏やかだったが、少し顔を赤らめて、笑いたいのをガマンしている様子だった。
そんな彼を見て、わたしは反射的に”英語が聞き取れなかったのだ”と、言い訳をしようと思ったが、瞬間、それをのみ込むと、すぐさま、お礼の言葉に切り替え、親切なチケット売り場の彼女の元へすっ飛んで行った。
泣き笑い
ああ、バスはここから出るんだ―!!
燃え盛る太陽の下、熱気が立ち昇る大地の上を、あろうことか、わたしは全力疾走していた。
誰もが木陰に避難する、午後のいちばん暑い盛りに…
ああ、なぜ、わたしは、こんなことしてるんだろう?!
熱射地獄の中、よりによって猛ダッシュしているなんて「狂気の沙汰」…自分が滑稽で滑稽で仕方なく、しまいには、泣きたいのに、笑いがこみ上げてくる始末だった。
しかしながら、こうしている間にも、チケット売り場の彼女が、いなくなったわたしを探し回っていないだろうか、と、気が気でなかった。
ああ、はやく、ここからバスが出ることを、彼女に伝えなくては!!
女神アフロディーテ
バスターミナルからチケット売り場まで、ざっと100メートル以上はあったと思う。
100メートルって、こんなに長かったっけ?!
…そう思うも、往復走り続けているからか…と気づく。
頑張れー、わたし!!
もう足が…と思ったところで、チケット売り場の方から、桜色の可愛らしいスーツに身を包み、優雅な小走りで、まっすぐこちらに向かってくる女性が見えた。
(チケット売り場の)彼女だ!!
と、その瞬間…
バス、ここから出るってぇー!!
…と、わたしたちは、お互いに、大声で、同時に、走りながら叫んだ。
彼女もバスの出発地を調べてくれていたんだー、と、感謝の念でいっぱいになりながらも、わたしは走りながら、こみ上げてくる笑いを、もはや、ガマンできなくなっていた。
どうにか、お互い走り寄ると、わたしは、息も絶え絶え、お手数をおかけしたことを詫び、また、彼女の親切な対応に感銘を受けたことを伝え、お礼を述べた。笑顔がとびきりステキな女性であったが、わたしがお礼を述べると、彼女のそうした輝きがますます増していくようで、その美しさに時間を忘れてしまうほどだった。
…と言うのも、実は、彼女はとてもすばらしい美人であった。ハリウッドの女優さんと思うような美しい人であったが、周囲をパッと明るくしてしまうような、あふれる輝きが彼女にはあった。桜色のスーツも彼女の白い肌、金色の髪に、とてもよく似合っており、また、スーツに部分的にあしらわれた、薄く柔らかな布でできたプリーツが、彼女の動きとともに繊細に揺れ動き、それが非常に上品で、エレガントな女性らしさを醸し出すのであった。
しかしながら、不思議だったのは、彼女が笑えば笑うほど、光り輝くような美しさが増してゆき、息をするのも忘れてしまうような、彼女の周りだけ空気が違うような気がしたのだった…。
バスターミナルで
さて、バスターミナルに戻ると、Cさんが、軽食屋の前でスタンバイしていた。彼はドイツ人であった。それまでは、わたしは勝手にフランス人だと思い込んでいたので、わたしのカンは(やはり)まったく当てにならないことがわかった(笑)。
わたしは、Cさんに、ティリンス遺跡の感想を尋ねたくてウズウズしたが(昨日、たまたまバスの中で、ティリンス遺跡で下車する彼を見かけていたのだが)彼の行動をちくいち、追いかけているように思われるのもイヤだな、と思い、尋ねることはできなかった。
軽い雑談をし、少し旅のことも話したりして、ギリシャの滞在日数をきかれたりした。そうこうするうちにバスが来て「ほら、来たよ」と、Cさんは言った。
ありがとう!!
わたしは彼にお礼を述べ、バスに乗り込んだ。
いざ、ナフプリオンへ
涼しいバスの中は、毎度ながら、すばらしい休憩タイムとなった。エピダウロスの遺跡見学をこなし、無事、帰りのバスにも乗車できた安堵感もあり、運転手の趣味であるBGMを聴きながら、軽くまどろみリラックス…、早くも、ナフプリオンの潮風が恋しくなるのであった。
以下、ナフプリオン行バスの車窓から見た景色
冒頭写真:バスの車窓から(エピダウロス~ナフプリオン間)
バス情報については、こちらの関連情報をご覧くださいませ。
当時をふりかえって
ぶしつけな質問に、嫌な顔一つせず答えてくれたCさん、そして、遺跡の親切で笑顔いっぱいのステキな職員さん、本当に、本当に、ありがとうございました!
感謝でいっぱいです。