ひとり旅日記 ギリシャ

女ひとり旅日記 ナフプリオン 潮風の魔法、他 ギリシャの旅139

潮風の魔法

バスは、Cさんをティリンス遺跡で降ろした後、さらに10分ほど走って、無事、ナフプリオンに到着した。

ふぅ…! 

1日1遺跡の見学で、わたしは限界だった。Cさんの鋼(はがね)の精神&ボディに感嘆するも、旅はまだまだ続くのだから無理は禁物、このくらいがわたしにはちょうど良いな、と思った。

さて、どこかで、冷たいものでも飲んで休憩したいなぁ、と、バスを降りたわたしの目に…

えっ?

すばらしいものが飛び込んできた!

以前、サントリーニで利用した、お気に入りのカフェ「コーヒー・アイランド」のロゴが、目に飛び込んできたのである! なんと、そのカフェが、バスターミナルの並びにあったのだ! 考えるよりも先に足が動き、わたしは定番の「フラッペ」を注文する。

外の席に落ち着くと、再び巡り会えた喜びに、じーんとした。

完璧なタイミング、完璧な場所に、このカフェは現れたのであった。

外の席でのんびりしていると、いつのまにか、この街の居心地の良さに身を委ね、全身リラックスしている自分に気づく。多分、潮風に秘密があるのだろう。ここは、遺跡見学の熱射地獄で疲労した体を癒してくれる、ゆりかごのような街だった。

そして、不思議だが、ナフプリオンに到着した時「”帰ってきた”」という感覚がして、その安心感で体の力みが抜けていく気がした。早くもこの街は、わたしにとって特別な場所になりつつあった。

潮風とコーヒーの香に癒され、しばらく頭を空っぽにした後、ふと思った。

実は、「明日:ティリンス&ナフプリオン考古学博物館見学、明後日:エピダウロス見学後、イスモス(コリントス)へ出立」を予定していたのだが、バス窓口に確認したところ、イスモス(コリントス)行きのエピダウロスのバス停が、エピダウロス遺跡から徒歩15分の村にあることがわかり、どうしたものか、と思っていたのだ。バス窓口の女性は、15分なんてすぐだから、大丈夫よ!という感じであったが、わたしは、地図もない状態で、炎天下、遺跡から一人で村に歩いて行き、バス停を探しあてるなどという危険は冒したくなかった。

しかしながら、今、空っぽの頭に、天からすばらしい案が降ってきたのだった。

簡単なことで、明日と明後日の予定を入れ替えれば良かった。最終日、ナフプリオンからバスで10分のティリンス見学をサッと済ませ、ナフプリオンの考古学博物館見学後、このバスターミナルからイスモス(コリントス)へ向かえば、何も問題はなかった。このほうが安全だし、明るいうちにコリントス入りすることができる。非常に簡単なことだったが、一度思い込むと、他が見えなくなってしまう状態にハマっていたのだった。

ホテルのオーナー姉妹とのおしゃべり

カフェでゆっくり休んだ後は、郵便局の並びにあるスーパーマーケットへ行った。バスターミナルの近くにあり、たいへん便利である。

重いビニール袋を抱え、ホテルへ戻ると、フロントはオーナーのお姉さんに代わっていた。

ヤーサス!

お互いニッコリ笑ってアイコンタクトを交わすと「How are you today?」から会話は始まった。

英語は相変わらず、下手くそであったが、何とか身振り手振りも交えると、優しい彼女は、機転を利かし、こちらに合わせてくれ、ゆっくりと簡単な英語で話してくれるのであった。

ミケーネの話や、明日のエピダウロス見学の話(ミケーネには木陰がないけど、エピダウロスには木陰があるから涼しくていいよ、と彼女は言っていた)、それから、気候の話になり「日本の夏は湿気があって大変だよ~」と、わたしが湿気でベトベトしているジェスチャーをすると、「湿気ね~、うんうん」と言いながら、彼女も湿気のジェスチャーをお返ししてくれるのであった(笑)。

また、年々、夏の気温が上昇していることを話すと、ギリシャもそうよ、とのことであった。

その他には…、毎年、海水浴に行くのか?(彼女は忙しくて、海水浴はできない、もっぱら歩くだけよ、と言っていた)、日本人は海でどう過ごすのか?(浜辺で寝転んだり、ボールなどで遊んだり、泳いだり、きれいな石や貝殻を拾ったり…と、わたしは答えた)、なぜナフプリオンに来たのか?(ミケーネ、エピダウロス、ティリンスの遺跡を見たかったから、あとインターネットで、カストロ(パラミディの城跡)から見た絶景写真を見て、ぜひ、行かなくては!と思った、と、わたしは答えた)などの質問があった。

そして、わたしがナフプリオンの美しさに、心から感動したことを伝えると、彼女は嬉しそうに微笑み、そして、しみじみとした口調で、こう言った。「でもね、わたし…、若い頃は…街を出たくて出たくて仕方なくってねぇ。実際、アテネとか、都会に行ったこともあったんだけど…、結局、この街が『一番』ってわかってねぇ…」

なつかしそうに微笑む彼女の顔が、いろいろなドラマがあったことを物語っているようで、とても印象的であった。

そして…

これから、ナフプリオンはもっと暑くなって、息ができないくらいになるよ…

彼女はそう言うと、口を開けて苦しそうにあえぐジェスチャーをした。わたしが驚いて目を見張ると、彼女は英語がちゃんと伝わっているか不安になったのだろう、「暑さでよ、暑さで息ができないくらいになるの」と、比喩であることを強調して説明してくれた。

あぁ…!

わたしは思った:今までギリシャの島々や本土を巡る中「灼熱の…」とか「熱射地獄」とか、いろいろな語句を使ってギリシャの強烈な暑さを表現してきたつもりだったが、そんなものではなかったのだ! 真夏のギリシャ、ハイシーズンのギリシャは、なんと、これからが本番なのだから!

想像を絶する暑さ! 息ができないほど…だなんて!

わたしは衝撃を受け、言葉が出なかった。

つづく

冒頭写真:カフェ「コーヒー・アイランド」にて、ナフプリオン

 

おすすめ記事