スミス山からの帰り道
スミス山からバス通りに戻ってきたが、帰りのバス停を見つけることはできなかった。尋ねようにも、まわりに人がいない。バスで走ってきた道を逆方向にしばらく歩くうちに、やっと前から人が歩いてきた。すかさず、バス停を尋ねると、「その先だよ」とのこと。
そう遠くはないな
彼の口ぶりからそう思ったが、しばらく歩くもバス停は現れない。
ちょっと、マズイかな
人を探しながら、バス通りを歩く。そして、たまたま運よく近くを通りかかった男性に声をかけることができた。すると、「バスストップ・・・? バスストップって何?」と逆にこちらに尋ねてきた。
えぇっ!(汗)
予期せぬ質問に内心あせったが、幸運なことに、わたしはバスストップ(バス停)の単語をギリシャ語で暗記していた。なんとか、ギリシャ語で言ってみると、「あー!なるほどね、ふむふむ」と彼は笑った。
「どこ行くの?」ときかれたので、「旧市街(オールドタウン)に行きたい」と答えると、「オールドタウン?バスなんか乗らなくても、ここからなら歩いて行けるよ」と教えてくれた。15分くらいだという。
歩けるなら歩こう!と思った。幸いなことに、道はゆるく下っている。
道なりにずーっと歩いていくと、分かれ道に出くわした。道路標識はない。
ん~、どっちに行けばいい?
すると、前からティーンエイジャーの若者2人が歩いてきた。
彼らに尋ねて大丈夫かな?
不安がよぎった。と言うのも、昔のスペインでのトラウマがよみがえってきたからである。残念ながら、人種の違いを理由にした嫌がらせは一部に存在し、それを子供は容赦なく真似するのだ。しかし、今のわたしには、彼らに道を尋ねるほか、選択肢がなかった。
勇気を出して、つたないギリシャ語で話しかけてみると、英語で答えが返ってきた。
よかった!
感じの良い青年たちだった。お礼を言って旧市街への道を歩き出すと、「ハブ・ア・ナイス・デェェーーイ!」と後ろから大きな叫び声が聞こえてきた。
ちょっと驚いたが、わたしも彼らに負けじと・・・
あなたたちもねーっ!!
と、大きな声を張り上げて応えた。(笑)
彼らの笑い声が遠ざかっていった。
城門・奇妙な感覚
彼らに教えられた道を歩いて行くと、広い道へ合流した。それは、リンドスへ行く時に車窓から眺めた道だった。バスステーションからバスで数分の場所であり、それは、間違いなく、旧市街に近づいている証拠であった。しかし、近づいているとはいえ、実際、どこから町の中へ入っていいのかわからなかった。
すると、近くに女性2人が立ち話をしているのが見えた。話が盛り上がって、楽しそうに笑っている彼女たちの話の腰を折るのは気が引けたが、そうも言っていられなかった。
勇気を出して尋ねてみると、「ここよ!!ここ!!」と、彼女らは2人同時に、激しいジェスチャーをまじえながら、体全体で「(あなたが探しているのは)まさに、ここ!」を強調して教えてくれた。
感謝を述べ、指し示された方向へ行くと・・・
ハッ!
わたしは、美しさに息をのんだ。
そして、遅まきながら、わたしは気づいた。
城門は同じじゃないんだ!
衝撃だった。複数ある城門は全て同じ造りだろうと勝手に思い込んでいた。わたしが今まで通っていた城門には橋がなかった。造りも機能も雰囲気も、まるで違っていた。
そして、さらに衝撃だったのは、昔の姿のまま残る、何百年も前のこの城門を突然目の前にしたことで、急に時間を切り離されて自分が過去に飛ばされてしまったかのような、もしくは、ここが時間に取り残された空間で、自分も城門に吸い込まれてしまったかのような気がした。先刻、道を尋ねた女性たちは、一瞬で、遠い存在になってしまった。
ブルッ!
周りには誰もいなかった。
我に返ると、さっそく城門を写真に収めた。
橋の下は堀になっている。この堀の迫力も尋常ではなかった。石の砲弾が無数、転がっている。
ふと見ると、堀の中にポツンと人が立っているのが見えた。
どうやって中に入ったのだろう?
そう思ったが、とにかく彼のおかげで、わたしは現代とのつながりを保てている気がした。(冒頭の写真)
そして、改めて、堀の壮大さに見入った。
ふー、こんなすごいものが、あったのか!
わたしは、スミス山から徒歩で帰ってきて、本当によかったと思った。でなければ、こんなすばらしい風景には出会えなかった。そう思いながら、橋を渡った。
城門をくぐりぬけた先は、ちゃんと現代の世界につながっていた。(笑)
設置されていた地図によると、わたしは、セント・アタナシウス門から旧市街に入ったようである。
ホテルを目指していたが、とりあえずの目標を考古学博物館に定め、まわり道であったが、城壁沿いに歩くことにした。旧市街の迷路は体験済みだったからだ。城壁を見失わないように歩いて無事クリア!「急がば回れ」作戦は功を奏した。
不思議レストラン
考古学博物館まで来てしまえば、いつもの城門から新市街に出るのは、もう体が覚えてしまっていた。この日は、ちゃんと食事をしたのは朝だけだったので、夕食は海側のレストランに行くことにしていた。
実は前日の夕方(リンドス帰り)に、レストラン前に座っていた白い口髭のおじいさんに「若いころは船乗りで、横浜にも行ったことがあるんだ」と声をかけられ、それがきっかけで、シミ・シュリンプ(シミ島名物の小エビ。その時はまだシミ島行きは決まっていなかった)を食べに行く約束をしていた。
レストランに行くと、おじいさんが昨日と同じ場所に座っているのが見えた。
シミ・シュリンプ食べに来たよ!
おじいさんに声をかけると、彼はこう言った。
「今日は天気が雨で、客入りもなかったから、シェフは帰ったよ・・・」
えええぇぇええぇえーーー!!(心の声)
衝撃で、わたしは何と答えて良いかわからなかった。
っていうか、レストラン営業してるけど・・・?!
店は開いており、照明はついていた。
シェフはいないが、店はやってる・・・?!
意味がよくわからずに、目を白黒させていると・・・
「とにかく、明日、また来なさい」
彼はそう言った。
あ、明日ねぇ・・・
明日こそは、シミ島へ行く日だった。
おまけ
結局、近くのレストランで「ハルミチーズ」を食べることになった。ハルミチーズというのは、キプロス島の名物と言われている。以前、読んだ本によると、半端ない美味しさらしい。かねてから一度食べてみたいと思っていた。
レストランでメニューを選ぶ際、チーズ料理があったので、もしかしたら、とウェイターに尋ねてみると、まさしくハルミチーズだった。
キプロス島に行かずして、ハルミチーズが食べられるんだ!
なんて運がいいのだろう!とワクワクしていたが・・・
ん~・・・
微妙な感じであった。それ自体に味はさほどなく、弾力があって・・・まあ、そんな感じ。次回はぜひ、キプロス島で食べてみたいな!
とにかく今日も一日、フル回転の日だった。(笑)