ひとり旅日記 ギリシャ

女ひとり旅日記 オリンピア ギリシャ人気質?! ギリシャ旅121

驚き、そして予兆

さて、無事にオリンピア観光を終えたわたしは、そのままホテルに帰り、明日に備え早めに休もうと思った。

その夜、部屋の備品が作動せず、壊れているのに気づいたわたしは、それをフロントに持って行った。フロントは、おばあちゃまから息子さん(ホテルの主人)に替わっていた。

その時に、明日の予定をきかれたので「明日はナフプリオンに行く」と答えると、「どうやって?」と彼は尋ねてきた。

「バスで、パトラ、コリントス経由で行くつもり」と答えると、「トリポリ経由でも行かれるんだよ」と彼は言った。

(えっ?!)

これを聞いた時、わたしは驚いた。と言うのも、旅行前に「オリンピア(ピルゴス)ー(トリポリ経由)ーナフプリオン」のバス情報をいくらネットで調べても、何も見つけることができなかったからだ。それでも、何か情報を得たい一心で調べ続けたところ「落石で、トリポリーナフプリオン間は通行止めになっている」という、一般人による短いコメント(英語)を見つけることができたのだった。そのコメントは数年前のものだったが、バス情報が見あたらない理由としては納得できるものだったので、わたしは、トリポリ経由をあきらめ、再度、往きと同様、パトラを経由するルートを取ったのだった。

しかし「トリポリ経由で行ける」と彼が言うのならば、道路は修復され、通行止めは解除されたに違いない…と、そんなことを思っていると「バスの予約はした?」ときかれた。

「していない」と答えると、彼は、穏やかな口調であったものの、それを否定できる人は、世界中、どこを探してもいないような、断固たる強い意志をもって「した方が良い」と、答えた。しかし、この時のわたしは、まだ、それがわかっていなかった。

序章

わたし:予約なんてしなくても、大丈夫だよ!

ご主人:なぜだね?

わたし:だって、今まで何の問題もなかったもん。

ご主人:それは、今までラッキーだったからだよ!

結局、ホテルのご主人とは、このまま問答が20~30分ぐらい続くのであった。

そして、ご主人は言った…

「パトラ、コリントス経由は、ナフプリオンに早く到着するけど、バスの乗車時間が長いんだ。トリポリ経由は、乗り継ぎがあって時間かかるけど、バスの乗車時間は短い。」

このようなことを彼は言っていたのだが、これを英語で理解するのに、恐ろしく時間がかかっていた。ただでさえ、話が長くなるとこんがらがってくるのに、とても疲れていて、もう部屋へ戻って休みたい、明日の支度が終わってないよ~…と、泣きたくなってくるのだった。

議論好き!

わたしは早く部屋へ引き上げようと、「このままで問題ないですから…」と歩き去ろうとしたが、「マダム!、マダム?!」と、彼は、まだ自分の話は終わっていない、ちゃんと聴いてほしい!と主張するのだった。

(わたしは、パトラ、コリントス経由で行くと言ったし、予約もいらないと言った。もう、いいじゃない。それなのに、なぜ、この人は、いつまでも、いつまでも、執拗に食い下がってくるのかしら!?)

わたしはイライラして「もう放っといてください…」という空気を出したが、もちろん、ギリシャ人のご主人に通じるはずもなかった。

(あー、ここは、日本じゃなかったー!)

…と、ここで、馬の周りをしつこくブンブン飛び回っている虻(あぶ)の映像が浮かんできた! 虻とは、もちろん、ソクラテスのこと(*)である。

(あー、ここは、ソクラテスの国、ギリシャだったー!)

そして、今や、その虻は、わたしの周りを飛び始めたのだった。

わたしは、再度、「明日は、パトラ、コリントス経由で行くつもりですから…(どうか、おかまいなく)」と、話を終わらせ、立ち去ろうとした。が、「ちょ、ちょっと、マダム!、マダム?!」と、引き留められてしまうのだった。要領を得ない外国人相手に、彼は決してひるまず、あきらめず、わたしが話の内容を、1から10まで全て理解するまで、根気よく、何度でも話し続けるのだった。

わたしは、このような、彼の底知れぬ忍耐力に圧倒された。自分が”こう”と思ったことを、全力で相手に伝えようとする力、情熱が、日本人とはまるで違う。己が納得がいくまで問答(議論)は続き、中途半端、尻切れトンボは、ありえないのだ。

(あー、ギリシャ人の議論好きって、本当なんだー!)

ギリシャ人は議論好きで、何かあるとすぐ言い合いになる、というようなことを、どこかで聞いたことがあったが、このご主人も、とことん話をクリアにしていくのが好きだった。

心変わり

わたしは、疲れていたし、正直、どちらのルートを使っても、ナフプリオンに行けるのだから、わざわざ予定を変える必要はない、それより早く話を切り上げて、休みたーい!と思っていた。

しかしながら、ご主人の情熱的な説明を聞いているうちに、不思議にも「トリポリ経由、いいかも!」と思い始めてきたのだった。

2度もパトラを経由する必要はない。それよりも、まだ見ぬトリポリを経由した方が、旅が面白くなるのではないか? それに、到着は遅くなるが、バスの乗車時間が短い方が、トイレの心配も少なくなるし、などと思ったのだった。

チケットの予約

気になるのは、明日は日曜日だったので、乗り継ぎが悪い事だった。トリポリで5時間ほど時間をつぶさねばならない。しかし、わたしは、その間、トリポリの町を見学するのも面白そうだな、と思った。そこで…

トリポリってどんな町なの?

と、ご主人に質問をしてみた。すると、さっきまで熱弁をふるっていたご主人が、急に押し黙り、沈黙が流れた。1秒、2秒、3秒…

(えっ?!)

わたしは、この沈黙は何なのだろう?と思い、彼が口を開きそうもないので「トリポリは(町ではなく)村なの?」と尋ねてみた。すると「違う、大きな町だよ」と彼は言った。

わたしは、山村の素朴な雰囲気を味わえるのかな、などと勝手に想像したのだが、違うようだった。

あれこれ思案顔のわたしに、彼は「予約にお金はかからんぞ、心配することはない」と言った。どうやら、彼は、わたしがお金のことを気にして、予約を言い出せないでいる、と思っていたらしかった。

結局、わたしは、ご主人に「ピルゴスー(トリポリ経由)ーナフプリオン」の長距離バスのチケットを予約してもらったのだった。

「ピルゴスに着いたら、窓口で、ホテルの名前を出して、チケットを買うんだよ」

ご主人は、わたしがちゃんと理解したのを見届けると、自分の仕事に戻っていった。

 

つづく

冒頭写真:アテネのソクラテス像

(*)プラトンは、自身の著作「ソクラテスの弁明」の中で、ソクラテスに「私はアテナイというりっぱな軍馬(しかしながら、巨大なので鈍い)を覚醒させるよう、神から国家にくっつけられた虻(あぶ)であり、だから、終日、至る所で諸君につきまとい、覚醒させ、説得し、非難することを決してやめない」などと言わせている。

 

余談:当時をふりかえって

クロニオ・ホテルのご主人には、本当に感謝している。

ミドルシーズンの旅行だったとは言え、あのままバスの予約をとらずに「パトラ、コリントス経由ーナフプリオン」を貫いていたら、首都:アテネ方面へ上京する人たちと途中でかちあい、チケットは取れなかったかもしれない、と気づいた。

また、ご主人により、「トリポリ経由ーナフプリオン」の道が再開されたことを知り、そちらへルート変更したことも、忘れられない思い出となった。(なんと、日光いろは坂も真っ青な山道を、バスは走り抜けたのであった!)

 

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