最後の夜
わたしは、美しいナフプリオンの夕暮れを目に焼き付けた後、海から離れ、旧市街の中心へともぐりこんでいった。
夕食、どうしようかな?
また、昨日のレストランに行ってみようかなぁ…と思ったけれど、冒険好きな(?)わたしは、やっぱり違う店にしようと思った。
旧市街の小道を歩くうち、一生懸命、お客さんを呼び込んでいるおじさまの姿が目に入り、わたしはそのまま、彼のお店のテーブル席に着いた。
オススメ料理を聞いてみても良かったが、結局、アルファビールと、何か軽めのものを注文したのだった。
その後、東洋人の男性が一人、おじさまの勧誘に素直に従い、スッと着席した。わたしは「一人旅!…ひょっとして日本人だったりして?!」などと、勝手に想像して、ちょっとした旅の話を、自由に、日本語でできたら楽しいだろうなぁ!と思ったが…、結局、想像するだけにとどまり…そのまま店を後にしたのだった(笑)。
下写真:ホテルへ帰る途中、お土産屋さんのショーウィンドウで。
一人旅のおばちゃま
わたしがナフプリオンで泊った可愛らしいプチ・ホテルは、なんと、築170年以上の、19世紀の古民家を改装した建物であった。よって、エレベーターはなく、2階へは階段を使って上がるようになっていた。
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さて、夕食を外で済ませてホテルに戻ると、ちょうど高齢の女性が、レセプション・ホールに隣接した階段を上がっているところだった。しかし、その様子はぎこちなく、手すりにつかまって「…よいしょ…どっこいしょ」と、一段ずつゆっくり階段を上っていたのだった。
彼女は、わたしに気づくと「実は今日ね、ミストラに行ったのよ。遠い所でね~。」そう言うと、クスッと笑って「いーっぱい歩き回ったからさ~。」と言って、筋肉痛(?)で足を引きづるようにして、やっとこさ、階段を上がっている自分自身を、彼女は笑い飛ばした。そして…
すーごく良い所だったわよ~!! …じゃ、おやすみなさ~い~♬
彼女は、歌うようにそう言うと、自室へ引き上げていった。
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わぁー! ミストラかー!!
今回のギリシャ旅では、残念ながら、わたしは、ミストラに行く余裕はなかったのだが、ミストラ遺跡は、ペロポネソス半島の南方、スパルタ郊外の山の斜面に築かれた、中世の城塞都市跡であり、今でも残っている教会の廃墟では、数多くのフレスコ画や壁画を見学することができ、たいへん美しい場所だと言われている。
しかしながら、ギリシャの強力な太陽光線を浴びながら、キツい山道を登り、山の斜面の遺跡群を歩き回るというのは、本当に過酷だったのだろうと思う。今日同日(5月31日)、わたしはエピダウロスのカラッカラに干からびた遺跡群を見学していたが、まだ楽だったのは、エピダウロスは平地だったからである。ゆいいつ、上へ上がったのは、巨大なすり鉢のような劇場の階段くらいであった。
それに、足腰を鍛え、何百段もの階段や、山の斜面を上り下りできる体力があったとしても、この暑さに勝てるか?と言うと、それはまた、別の話なのである。
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しかしながら、先ほどのシニア世代の女性が、ミストラ遺跡に果敢にもチャレンジし、ホテルの階段を上がるのに四苦八苦していたけれど、心から楽しそうにしていた様子を見て、西洋人のシニアのパワフルさに感心したのだった。
ギリシャを旅しながら、シニア世代の旅行グループをいくつも見てきたし、ナフプリオンのカストロ(パラミディの城跡)の目もくらむような断崖の道も、シニア世代が難なくこなしていて、わたしは驚いたのだった(恥ずかしながら、カストロ下山の際、高所恐怖症で動けなくなったわたしを助けて下さったのも、シニア世代のおじさま…でした)。
昔、スペインに滞在していた時も…あちらでは、あらゆる世代が海水浴を楽しむのだが、特に、シニア世代が水着を着て海を楽しんでいる姿に衝撃を受けたり、休日に、家族と一緒に車イスで買い物を楽しんでいるシニア世代を数多く見かけたりして、その明るさとオープンさ、フットワークの軽さに驚いたものだった。
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そんなことを思いながら、その夜、わたしは眠りについた。
冒頭写真:おしゃれなレストラン、ナフプリオン