アトレウスの宝庫へ
さて、考古学博物館にて、ミケーネのすばらしい宝物を見学した後は、アトレウスの宝庫へ向かう。アトレウスの宝庫は、遺跡の出口を出て、駐車場横の車道を300メートルほど下った所にある。
念のため、道を確認してから歩くも、アトレウスの宝庫へ向かって坂を下っているのは、なんと、わたし一人だけだった。誰もいない…と不安になるも、この道以外に道はない!と、自分に言い聞かせ、歩く。しばらくすると、幸いにも、前から女性が歩いてきたので、再度、道を確認する。大丈夫、宝庫はこの先にあると言う。途中、観光バスとすれ違った。
300メートルと言われても、大体の感覚で判断するしかないが、車道が分岐している箇所を(駐車場を背にして)右折すると、右奥に宝庫が現れる。
アトレウスの宝庫
ドーン!!
迫力!!
入口、真正面からの撮影。実際に、ここに立って初めて感じる、約3000年前のトロス式墳墓の迫力。
石積の中には、ユニークな形にカットされ、はめ込まれた石もあった。
入口の上方(三角の部分)。コーべリング技法が用いられているのだろう。
入口の上部は「獅子のトロス式墳墓」と同じく、数枚の一枚岩でフタをされているようだ。また、入口を縁どるように、石の表面に溝が彫られており、何か装飾が施されていたことがうかがえる。
ファサードの装飾
実は、考古学博物館では、このようなタペストリーが展示されていた。アトレウスの宝庫の入口は、当時、このような装飾がされていたらしい。
絵の部分のズーム。図柄は、クレタ島、クノッソス宮殿の有名な「牛跳び」のフレスコ画を彷彿とさせる。花の模様や渦巻き模様も同様で、たいへん興味深い。
いよいよ宝庫の中へ
さて、中は、どうなっているのか…?! 入ってみよう。
内部に、さほど奥行きはないので、外からの自然光で見学できる。
中はこんな感じ。何もない。
そして、天井。
石はきっちりとドーム状に積まれているが、天井の中心部分に向かって傾斜がつき、とがった形に積み上がっている。この形が蜂の巣に似ているので、蜂窩状墳墓(ほうかじょうふんぼ)とも言うらしい。
墳墓の中には何もなかったが、3000年以上前の大昔の人々が、重力の分散など、高度な技術を駆使して作り上げたというから、本当にすごい。
感慨に浸りながら、ボーッと天井を見上げていると、30人くらいの女性ばかりのグループが、だーっと墳墓の中になだれ込んで来て、たちまち入口をふさがれてしまった。
(わっ!)
一人、貸切状態だった墳墓の中は、たちまち、にぎやかに(笑)。
ふと、入口の外に視線を向けると、ピラミッド状の三角山が見えた。
ガイドの説明に聞き入る見学者たち。言語はギリシャ語のようだった。
中から見上げた入口付近。
上からの眺め
さて、なんとか外に出て、あらためて墳墓を眺めた時、上からも見てみたい!という強い欲求がムクムクとわき上がってきた。そこで、右手の土手を上がってみることにした。(※)
上ると、かなりの高さになる。そのまま、丘の上を歩いてしまいそうになるも(草が生え、ふつうに丘化している)、中は空洞なんだ!と思いとどまる。
思いは、テサロニキから日帰りで行ったヴェルギナの考古学博物館に飛ぶ。あの博物館は、こうしたトロス式墳墓の形状を模していたわけだ。
三角の部分に近づいてみた(あとから写真をよく見ると、牛の図柄があっただろうと思われる個所に、小さな穴が開いているのがわかった)。
三角の右側の部分は岩と葉に隠れて全体が見えないが、おそらく、左側と同様、シンメトリーに穴が開いているのだろう。牛のレリーフを設置していた跡かもしれない。
また、見学時には気づかなかったが、入口の装飾の石柱を支えていたと思われる台の跡もわかった。
人が意外や小さく見え、この墳墓の大きさを改めて感じた。
展示ボードによると、「アトレウスの宝庫」または「アガメムノンの墓」とも呼ばれる、このトロス式墳墓(蜂窩状墳墓(ほうかじょうふんぼ))は、紀元前1350~1250年の建立である。ドロモス(羨道)、ストミオン (入り口)、トロス (アーチ型の部屋)、小さな側室、で構成されている。特徴は、入口に巨石(脇柱と鴨居)が使用されていること、そして、丁寧に整えられた石が使用されていることだ。かつて、ファサード(建物の正面)はさまざまな素材で装飾されていたそうで、装飾の一部は現在、ロンドンの大英博物館とアテネの国立考古学博物館に所蔵されているとのこと。
他の全てのトロス式墳墓と同じく、この墓も盗掘されており、副葬品やかつて納められていた埋葬品についての情報はないそうだ。決して土に埋もれることはなく、常に目に見える状態であり続けたので、この墳墓は、古代から現代に至るまで、旅行者たちの注目を集め続けてきたそうである。
…ということは、目立つお墓だったので、盗掘者のターゲットにも、されやすかったのだろう。残念ではあるが、この石づくりの墳墓だけでも、ミケーネ文明の技術の高さが、十分味わえたと思う。
(※)立入禁止の柵や看板はありませんでしたが、上がる場合の判断は、自己責任でお願いします。
冒頭写真:アトレウスの宝庫、ミケーネ遺跡