ひとり旅日記 ギリシャ

女ひとり旅日記 オリンピア 考古学博物館への道 ギリシャ旅116

灼熱の太陽からの脱出

オリンピア遺跡を無事、見学し終えたわたしは、深い満足感とともに、うだる日差しの中、考古学博物館へと足を踏み出した。暑さで何も考えられない気がしたが、とにかく、「考古学博物館=クーラーの効いた涼しい部屋!、考古学博物館=冷たい水が飲める!、考古学博物館=この暑さから逃れられる!!」という一心で、なんとか足を動かしていた状態であった。

古(いにしえ)のアスリートたち

そんな中、いつしか思考は、古代の偉大なるアスリート、ディアゴラスへと飛んでいた。ディアゴラスとは、その名前がロードス島の飛行場名にもなっている、ロードス島出身の拳闘(けんとう)=ボクシング選手だ。

身長2メートル以上あった大男の彼は、紀元前5世紀半ば(デロス同盟の盟主:アテネが絶頂期だったころ)に、拳闘でオリンピック優勝を2度、果たした。また、彼の二人の息子もオリンピック優勝を果たし、彼は息子たちの肩にかつぎ上げられ、観衆の間を練り歩き、称賛の的となったという。彼の家系は(その強さのためであろう)ヘラクレスの末裔とされたそうだ。

ロードス島では惜しくも、彼らの彫像を見ることはできなかったが、日本を旅立つ前、このエピソードを知り、なんてすごいのだろう!と、胸がふるえたものだった。

そして今、こうして、オリンピアの地に立ってみると、なんて彼らはタフだったのか!と心の底から思い知らされるのだった。

ロードス島からいくつもの島を越え、エーゲ海を横断し、ペロポネソス半島の陸路を経て、はるばるこのオリンピアの地まで来るだけでも、大変なことである。そして、1か月間のトレーニングを経て、彼らは、ギリシャ全土をあげてのオリンピック競技に無事参加し、優勝したのだ!

わたしは(回り道をしたものの)ロードス島からギリシャ本土へは飛行機、そしてオリンピアまではバスを使って楽ちんな旅をしてきたわけだが、当時の骨の折れる、命がけの旅のことも、想像せずにはいられなかった。

強靭な精神と鋼(はがね)の肉体、彼らはまさに超人だったのではないか…?

そんなことを思いながら、わたしは暑さでヘロヘロになりながらも、考古学博物館への1本道をなんとか歩き続けた。

オリンピック植物園

考古学博物館へ行く途中に、ピンク色の花々が賑やかな一角があった。看板を見ると、なんと植物園だという。色々なハーブや木々が植えられた緑の中を歩くことができるという。思わず興味をそそられたが、この度は、入口に咲く花々を鑑賞するにとどまった。

以下、美しい花たち。

オリンピア

 

オリンピア

 

オリンピア

 

バラの花が美しい時期。

オリンピア

 

奥行きがけっこうありそうな植物園だった。

オリンピア

 

考古学博物館に着いたけど…(涙)

花々に癒された後、わたしは最後の力をふりしぼり、博物館を目指した。ペットボトルの水は、もうほとんど残っていなかった。そして…

やったー! 博物館に着いたー!!

わたしは、まっすぐ博物館の売店(カフェ?)を目指した。が、

あれ?! 

人がいないし、中に入れないよう扉が閉まっていた。

え、うっそー!! 

博物館は開いてるのに、お店が閉まっちゃう、などということがあるのか、と、辺りを見回すと、ちょうど博物館の女性職員が歩いて来た。すかさず、彼女に尋ねてみると…

今日は、日曜だから何もないのよ…

この時、わたしは、よっぽど切羽詰まった顔をしていたのだろう。彼女は、心の底から悲しそうな顔をし、わたしには何もできることはないの…、と言うように、歩き去って行った。

茫然として彼女を見送るも、ならば仕方ない、と、わたしは自動販売機を探すことにした。売店が閉まっているのなら、もう、自動販売機しかない。しかし、どこにも自動販売機は見当たらなかった。

ウソだよね?

わたしは、売店の周囲を探すのをあきらめ、建物の外に出てみた。すると、入口付近に、博物館の職員数人を見かけたので、彼らに自動販売機の場所を尋ねてみた。幸いにも、その中の一人が「ベンディング・マシン(自動販売機)」の英語を理解してくれた。しかしながら…

自動販売機? ここにはないよ。え、お水? お水は町で買ってきなよ。

と、答えが返ってきた。わたしは、ヘナヘナと力が抜けてしまいそうになった。体調を気遣いながらも、やっとの思いでたどり着いたこの博物館で、水を一滴も得ることができない、という事実を受け止めるのに、少し時間がかかった。

そんなわたしの様子を見て、職員さんは、入口付近に設置された水道の蛇口を指さして、こうも言ってくれた。

あれは山から水を引いているんだけど…。2,3分出しっぱなしにしてから、飲むといいよ。

彼は、とても親切な人だった。しかしながら、万が一、お腹を壊してしまっては、旅を続けることができなくなってしまう。そんな危険は冒(おか)せなかった。

水道の蛇口を見つめながら、ぼーっと考えあぐねていると…

町に行きなよ。歩いてすぐだから。

と、再び彼に促された。

それで、やっとわたしは、町に戻る決心ができたのだった。

エフハリスト!!(ありがとう)

ここから町までの道のりを思うと、遠くて涙が出そうになったが、なんとか彼にお礼を言うと、目の前の考古学博物館をUターンし、町へ向かってわたしは歩き出した。

いつものわたしなら、なんてことのない距離だったが、もう本当に暑さで体がまいっていて、途方もない距離のように感じた。しかしながら、ここで一旦、ホテルでの休憩を数時間はさみ、夕方(※)からゆっくり博物館を見学するのも悪くない、という考えが、次第にわたしの中で広がり始めていた。むしろ、はじめからそうしておけば良かった、と思うくらいだった。

わたしは何をあせっていたのだろう?

そう思うと、いくぶん軽い気持ちで、ホテルまで歩けそうな気がした。

つづく

冒頭写真:オリンピック植物園の花

考古学博物館の開閉館時間は、最新情報をご確認ください

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