山岳地帯を抜けるとそこは…
トリカラから2時間以上走って休憩所に立ち寄った後、バスはパトラの町がある、ペロポネソス半島を目指し、再び走り出した。
バスは山岳地帯に入り、大地は凹凸のある景色になった。特に、観光名所ではないけれど、美しい風景が続く。
いくつもの山々をクネクネと越えた後、いきなり窓の景色(バスの左側の席)は、水辺へと変わる。さっきまで山と崖だった風景が、魔法のように、広大な水辺へと変わってしまうのだ。
景色に見とれていたが、しばらくすると、妙な感じに気づく。
これは、海? それとも…?!
最初、わたしは海に出たのかと思った。水の色は美しいブルー、まさに地中海の色だった。が、波がない。静かすぎる。水面が、鏡のように穏やかなのだ。
荒れ地の山や丘に囲まれて、ブルーの広大な水面が広がるが、カモメもいなければ、船もなかった。
そうか、これは湖なのか…
山中を走るバスは、突然、この美しい湖に遭遇したのだ、と思った。しかし、バスは左側に迫る湖を見ながら、右側の険しい山の裾(すそ)に沿ってクネクネと走り続け、時には、短いトンネルも通ったが、いっこうに湖の景色は終わらずに続いた。
湖にしては、あまりにも大きすぎる。これは海なのか…?
そう思い始めた時、頭の中に地図が浮かんだ。
これは、本土とペロポネソス半島の間に横たわる、イオニア海が湾入してできたコリンティアコス湾なのかもしれない。外洋から隔てられているため、場所によっては、波が起きにくく、水面が穏やかなのかもしれない。
湾に出たとなると、そのうちペロポネソス半島へ渡る橋が見えてくるはずだ、と思った。
30、40分ほど水辺をバスが走り続ける中、しばらく前に「デルフィ」の看板を通り越したことを思い出した。「デルフィ」の方角へはバスは曲がらず、今回はペロポネソス半島のパトラ、そして、オリンピアを目指す。旅の終盤、クライマックスの一つとして、デルフィ観光はとっておいたのだ。
デルフィへの道を通り過ぎる瞬間、目と鼻の先のかの地に向かって、後で必ず行きます、と心の中でつぶやいた。
ついに、ペロポネソス半島へ
しばらくして、車窓を眺めていると「ナフパクトス」という地名が目に飛び込んできた。文字を見た瞬間、電撃を受けたように、わたしは反応した。
忘れもしない、ナフパクトス…と言うのも、このトリカラからオリンピアまでのルートを、あーでもない、こーでもない、と練っていた時(デルフィ経由でオリンピア観光も考えたが、交通の便が悪く、この案はボツとなった)に、さんざん地図上で目にした名前であった。この地名が出てきたということは、ペロポネソス半島へ渡る橋は、もうすぐである。
しばらくして、バスは町中に入った。車の数や道路の案内標識が急に増えてくる。そして、ついに(!)左側のバスの車窓から、吊り橋らしきものが遠くに見えてきた。まだ小さく見えるだけだったが、ガイドブックで何度も見た特徴がある。
あの橋に間違いない!
橋はどんどん近づいて、大きくなってきた。
そして、ついに橋を渡った!
ペロポネソス半島、上陸!!
わー、とうとう、ペロポネソス半島まで来たんだー!と、心の中で叫ぶ。
橋を渡るのは、あっという間だった。わたしは体をひねり、後方に遠ざかっていく吊り橋の姿を、今度はペロポネソス半島側から写真に収めた。
冒頭写真:トリカラからパトラへ バスの車窓から