トリカラ
意外にも、経由地のトリカラは、大きくてりっぱなバスターミナルであった。次のバス(カランバカ(終点)行き)の出発まで、30分ほど時間があったので、ちょっとした休憩をとった。チケットは、すでにテサロニキからカランバカまで通しで買ってあったので、問題なし。とりあえず、ターミナル内をぶらついてみることにした。
人間観察
ターミナルのチケット売り場で、サプライズがあった。東洋人女性の二人組を見かけたのだ。「いつぶりだろう…」と思うくらい、久々に東洋人を見かけたので、驚くとともに、親近感が湧いてきた。
母娘で旅行をしているらしい。娘さんがチケット売り場で何やら交渉を始めたようだ。
今までわたしは、どの国の出身か見分けがつかない人々を、正確に当ててみせる外国人に驚かされてきたので、ここでわたしも、彼女らがどこから来ているのか、当ててみようという気になった。
驚いたことに、窓口で、娘さんの口から出てきた英語は、まるで機関銃のように激しく、切れ目なく、一体、どこで息継ぎをしているのか、と思わせるようなものだった。
窓口のギリシャ人女性は、圧倒され、ただただ相手の顔を見つめることしかできなかったが、英語の勢いは、穏やかになるどころか、ますます高ぶっていき、傍らで見ているだけの、ただの傍観者であるわたしでさえ、心が折れてしまいそうになった。
しかしながら、窓口の交渉は無事、終わったらしく、娘さんはくるっと振り返り、チケット売り場を後にした。その後ろでは、目をまん丸くして「イマノハ、ナニ?」と、同僚と無言で見つめあう、窓口の女性がいた。
そんな一部始終を見てしまったわたしは、タジタジとなって、その場を去ろうとしたが、なんと、その娘さんから(!)英語で話しかけられたのであった。
一本とられる!
娘さんにとっても、ここで東洋人に会うとは、ちょっとした驚きだったのだろう。
ねえ、メテオラ観光するの?
と、彼女は話しかけてきた。それは、外国人特有の、オープンな親しみを感じさせるもので、それは確かに(残念ながら)日本人にはない美点の一つだった。
ホテルは決まってるの? 場所はわかる?
そう尋ねられ、わたしはアバウトなことしか答えられず、逆に、同じ質問を彼女にしてみたりした。一通り、問答が終わると、わたしは「ねえ、どこから来たの?」と、心の中で温めていた質問をした。すると、彼女は「K国から来た」という。
(あっ!)
わたしはここで、遅ればせながら、まだ、自分の出身国を告げていないことに気づき、あわてて自分が日本から来たことを彼女に告げると…
あ~、知ってたよ!
…とのことだった。
(えっ?!)
わたしは言葉が出なかった。
彼女たちの出身国を見破ろうと、意気込んでいたわたしだったが、なんと、見破られていたのは、わたしの方だったのだ!
カランバカ(メテオラ)へ
そんなやりとりをしながら、30分はあっという間に経ち、わたしたちは、それぞれカランバカ行きのバスの座席に収まった。あと、1時間もしないうちに、メテオラに着く。高揚感でいっぱいだった。
そして、日が沈み、バスの進行方向に大きなシルエットが浮かび上がってきた。これこそが、メテオラの奇岩だった!
おぉぉー!
まだまだ、奇岩までは遠かったけれど、わたしは、これまでの道のり(アテネのピレウス港から出発して…うんぬん)を思い出しては、とうとうメテオラまで来たんだー!という、感動でいっぱいになった。
冒頭写真:カランバカ行きバスの、フロントガラスからの風景。奇岩のシルエットが浮かぶ。