道連れ
こうして、英語を話す女性とバスを降りたわたしは、何となく道すがら、彼女と話しているうちに、自然と一緒にヴェルギナ見学をすることになっていた。彼女(Yさん)はギリシャ人であった。コス島に住んでいるが、今はテサロニキに住む息子さんを尋ねてこちらに来ているそうだった。
遺跡と考古学博物館
バスが走り去った方向に歩いてすぐに、目的の遺跡/考古学博物館にたどり着いた。とても風変わりな感じの建物だったが、外観をゆっくり見物する時間もないまま、入り口を入った。中は薄暗い照明となっている。
入ってすぐに、フィリッポス2世(アレキサンダー大王の父)の墳墓を発掘した、考古学者さんの写真が大きく飾ってある。Yさんは、彼の顔を見るや、「ああ…」と感激の声を漏らした。もしかしたら、Yさんは、リアルタイムでこのすばらしい発掘のニュースを耳にし、衝撃を受けた世代の一人だったのかもしれない。
今回はギリシャ人女性と一緒の博物館見学で、いつもとは違う刺激/驚きがあった。
なんとYさんは、墓石に彫られた紀元前の文字を読むことができた。
ねえ、この石には○○って書いてあるわよ~
と、彼女は何でもない事のように、わたしに教えてくれた。当然、墓石に刻まれた古代人の名前も彼女は読むことができた。
(す、すごい!!)
わたしは、びっくりして口がきけなかった。そして、うらやましい、とも思った。彼女は、特別、古代ギリシャに精通しているわけではなかったが、当時の文字をある程度は読めるらしかった。日本に置き換えてみれば、たった数百年前の文字でも、一般人には難解であるから、本当に驚かされた。
館内をめぐるうちに、暗さと人と・・・そして展示物にのめりこむあまり、いつのまにか、わたしたち二人ははぐれてしまっていた。しかし、おたがい、見学が終わった時点で、また会えるだろうと思った。
印象に残ったこと
残念ながら、このヴェルギナの考古学博物館では、写真撮影が禁止されており、詳細な記録ができなかったため、記憶に残っている印象を述べてみようと思う。(博物館パンフレットの紹介はこちら)
黄金の宝物と王の墳墓、この2点が圧倒的存在であった。黄金の宝物の中でも、特に目を奪われたのは、ふわっとした繊細な感じがよくできている草花の黄金のリースであった。編み込まれた草花の細い茎の一本、一本、細かい葉っぱや薄い花びらの一枚、一枚に至るまで、思わず、ため息がでるほど美しいものだった。気の遠くなるような作業であろう。これが、本当に紀元前のものなのか・・・?と信じられない思いだった。
じつは、本物の黄金でしか、あの繊細さが出せない事をわたしは知っている。近年、レベルの高い手作りアクセサリー・パーツの店が増えてきたのだが、考古学博物館にあるような古代のアクセサリーを模したものも少なくない。なんと、わたしはこの黄金の草花のレプリカ・パーツを店で見つけてしまったのだが、厚ぼったく繊細さに欠けるものだった(しかしながら、もちろん強度はとても大事であるから、それはそれで良いのだろう)
王の墳墓については、独特の雰囲気があった。他のフロアとは一線を引いた、静かでほの暗い、何か死者の国とつながっているような、神妙な気持ちにさせられた。圧倒的存在感であった。
印象に残ったこととして、もう一つ挙げるならば、このヴェルギナの博物館のユニークさである。雰囲気づくりがうまく、来館者を満足させるための工夫をいろいろしている。建物自体も興味深いものがある。
冒頭写真:ヴェルギナの博物館出入口通路
草花の黄金のリースについては、似たものをテサロニキ考古学博物館で写真に収めています。(こちらです)個人的には、ヴェルギナのリースが一番繊細に感じ、感動も大きかったのですが、今から思えば、もしかしたらそれは、一番最初に見たリースだったからかもしれません。