ひとり旅日記 ギリシャ

女ひとり旅日記 テサロニキ なぞの郷土菓子パン ギリシャの旅87

テサロニキの郷土菓子パン

休憩も兼ね、ゆっくりと食事をしたつもりだったが、まだまだバスの時刻までには、時間は余っていた。ガイドブックをパラパラめくっていると「テサロニキを代表する郷土菓子パン、ツレキ」の文字が目に飛び込んできた。

ツレキとは…                                     「生地を編み込むようにして焼いた、卵がたっぷり入った甘いパン、プレーン味からチョコレートや白砂糖、砕いたナッツをかけたものまでさまざま。マスティハやバニラ風味のものもある」(地球の歩き方より引用)

へ~、この機会に食べてみるのもいいかも。時間もあることだし…

ちょうど、メテオラに着いた際、宿で小腹を満たすのにも良いだろうと、わたしは軽い気持ちで、旅の記念にこの菓子パンを買って食べてみよう、と思った。

親切なパン屋さん

レストランを出、適当に町中を歩き、見つけた食料品店のパンコーナーで「ツレキ」なるものを尋ねるも…

「知らない」

…と、そっけない。

(えっ?!) 

(テサロニキを代表する、郷土菓子パンじゃないの?!)

わたしは、心底驚き、途方に暮れたが、やがて気を取り直した。

しばらく歩くと、個人経営のパン屋さんがあったので、わたしは迷わず店に入り、ガイドブックの写真を見せながら、「ツレキ」なるものを尋ねてみた。すると…

「あー、これはねぇ、○○○にしか売ってないんだよ~!」

(えーーーーーー!!)

○○○は聞き取れなかったが、それよりも、テサロニキを代表するような郷土菓子パンが、どうして、この町で簡単に入手できないのか、そちらの方が驚きだった。

(…と、いうことは、何か特別なパンなのだろうか?)

しかしながら、そんな肝心なことは、ガイドブックには一言も書いていないのだった。

店主に、伝統のあるパンなのか、と尋ねると「そうだよ」とのこと。彼はさらに一言二言、何か話しかけてくれたが、わたしに聞き取れたのは「…サウザンド・イヤーズ…」のみだった。それでも古い伝統のある、特別なパンだということが、分かりかけてきた。

わたしは彼に、「なぜ、ツレキを探しているのか?」ときかれ、ギリシャを一人旅していることと、ガイドブックで「ツレキ」のことを知り、どうしても食べてみたくなって探しているのだ、と答えた。

「なるほどね、面白い」

彼はそうつぶやくと、何やら紙片に書き出し…

「ここに行きなさい」

と、そのメモをわたしに差し出した。

なんと、親切にも(!)彼はツレキを売っているお店を紹介してくれたのだった!

原動力

店主の説明によると、海の方角へ逆戻りだった。外は、太陽の威力がさらに増し、ハンパない暑さになっていた。

あー…

暑さにダレて負けそうになるも、わたしの耳には、店主の、あの「サウザンド・イヤーズ」という言葉が何度もこだましていた。

サウザンド・イヤーズ…

ということは、1000年? いや、2000年…?! よくわからなかったが、とにかくこの言葉が、わたしの中の好奇心の虫を刺激し、暑いさなか再び歩き出す、強い原動力となったのだった。

高級菓子店

何人もの人に道を尋ね、とうとう目的のお店にたどり着いた。そして…

(あっ!)

見た瞬間、わたしは心の中で思わず叫んだ。

それは、美しい、大きくて洗練されたお店だった。明るく開放された雰囲気でありながら、なかなか洒落た高級菓子店だった。

(ああ、この店!! なんでもっと早く来なかったのだろう!!)

わたしは、もうすぐ、テサロニキを離れなければならないこの身が呪わしかった。そんな風に思うほど、魅力にあふれた店だった。店構えも雰囲気もすばらしかったが、何百という種類のあらゆるお菓子が、ショーケースや棚に美しく並べられ、それはウットリする光景だった。

しかしながら!!

わたしには、それよりも大切な使命があった!!(キリッ!)

そう、ツ・レ・キ!!(笑)

わたしは、すぐに店員を呼び止め、店主の書いてくれたメモを見せながら、ツレキのことを尋ねた。

「こちらですよ!」

間髪をいれず、すぐに返事が返ってきて、広い店内を誘導案内してくれた。

さすがだな~

と感動するも、店内を横切りながら、さまざまな色・形、大きさの、名も知らぬ美しいお菓子たちに目が釘付けになっていた(笑)。

ついに対面

ドーン!

(わー! デカ!!デカすぎる~!!)

わたしの目の前に差し出された「ツレキ」なるものは、バスケットボールぐらい(もっと大きかったかも)の大きさだった。チョコレートでコーティングされている。

…こ、これは、大きすぎる…(汗)

わたしは圧倒され、そう言うのがやっとだった。

ツレキが、こんなに大きなものとはつゆ知らず、これでは買って帰ることはできないな、と思っていると、小さいサイズもある(!)とのことだった。出してもらい見てみると、小さいとは言え、中華街で売っているような、大きな肉まんぐらいはあった。

デカ!!

わたしは、何層ものチョコレートで念入りにコーティングされ、顔が映りそうなぐらい、ピカピカに光っているツレキを見つめた。てっきり、こぶしぐらいのツレキが買えるものだと思っていたのだったが…。しかし、結局、そのまま購入することにした。

ツレキは、お店のロゴと創業の年が印刷された、ペパーミント色の美しい紙の箱に、丁寧に宝石のように納められた。たかが、パン1個の買い物だったが、不思議な高揚感に包まれ、わたしは店をあとにした。とにかく、圧倒されっぱなしだった。

つづく

冒頭写真:イメージ写真(ツレキとは関係なし)

補足:

今回、ブログを書くにあたり、ツレキ(Τσουρέκι/Tsoureki)のことを自分なりに調べてみました。「Τσουρέκι」でグーグル検索すると約91万件「Tsoureki」で検索すると約84万件「ツレキ」で検索すると約800件ヒットしました。いろいろなサイトがあり興味深かったのですが、共通しているのは、ツレキがギリシャのイースターに食される、甘いパン、ということでした。

ですので、親切なパン屋のご主人は、「(ツレキは)イースターの時期にしか売っていないんだ」と言っていたみたいです。

しかしながら、ご主人から紹介されたお店「Terkenlis」のウェブサイトを確認したところ、このお店では、チョコレートのツレキなどを、1年中、楽しめるとありました。

古い伝統あるパンのはずなのに、なぜ、チョコレート?と思いましたが、ツレキはいろいろなバージョンがあるそうです(ガイドブックの写真とも形状が違っていました)。

ところで、なぜ、ガイドブックがツレキを「テサロニキを代表する郷土菓子パン」と紹介しているのかは、ナゾ…です(笑)

最後に、パン屋のご主人のメモには、お店の名前のほかに、親切にもギリシャ語で「ツレキが欲しいです」と一言、添えられていました。お心遣い感謝しております!

 

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