海岸通りのバス停で
新市街での用事を済ませ、少し休憩をとった後、今度はスミス山(モンテ・スミス)へ向かうことにした。
バス乗り場は、東/西部方面バスステーションではなく、海沿いにある。バスステーション近くのインフォメーションを東へ曲がると、海沿いに細長い公園が見えてくる。(ローカルな話だが、横浜の山下公園のような感じ)その公園沿いに大きな車道が通っており、その一角にバス停はある。
その通りまで出てしまえば、バス停に並ぶ人々や、出発時刻まで待機しているバスが見えてくるはずである。
バス停でバスの番号を確認し、周りの人々にもスミス山行きを確認した。英語を話すギリシャの人々はスミス山を「モンテ・スミス」と言う。
「マウント・スミス」じゃないのか?
と、疑問に思ったが、「マウント」と言う人は誰もいなかった。「モンテ・スミス」というのが、固有名詞になっているのかもしれない。
バス停の人々の中でも、特に、よくしゃべり、モンテ・スミスのことをよく教えてくれる男性がいた。「バスは何番に乗って、バスを降りたら~しばらく歩く」という細々した事を、彼は生き生きと、よどみない口調で話してくれた。
すると、年配の男性が、わたしがひとり旅なのを見て、「え、モンテ・スミスに行くの? さらわれないようにね!」と冗談を飛ばしてくる(笑)。
ふと、時刻表を見ると、バスが来るまで時間があった。そこで、バスを待つ間、わたしは海沿いを散歩してみようと思った。話が一段落したので、彼らにお礼を言い、細長い海の公園へと向かった。
2頭の鹿
海沿いの散歩は気持ちがいい。小型船や、銅像、花壇を通り過ぎる。ところどころに置かれたベンチで、人々が話に花を咲かせている。アイスクリーム屋さんもあった。
ギリシャのロードス島にいるはずなのに、なぜか、地元の山下公園を思い出しながら歩いている。
不思議だな~(笑)
そして、なぜか、はるか遠くの柱のようなものに、目が吸い寄せられた。
何だろう・・・?
小さくて見にくいが、柱の上に何かが乗っているように見える。そこで、カメラをズームさせてみると、現れたのは鹿だった。
あー!!(笑)
そう、これはロードス島のシンボルの一つ、有名な鹿の像だった。これは、本当にラッキーな出来事だった。
ぜひ、そばまで行って見なくては!
どんどん近づいていくと、対岸にもう1頭、角のない雌鹿の像が見えた。
ロードス島に来たならば、ぜひ、写真に収めたい場所の一つである。印象的な光景だ。
怪しい雲行き、ハプニング
バス停に戻りしばらくすると、先ほどモンテ・スミスのことを親切に教えてくれた男性が、バスの運転席に乗り込んだ。
え!
なんと、彼はバスの運転手だったのだ! よく、観光客から尋ねられるのだろう。どうりでよく知っていたし、流れるような説明だったわけだ! たまたま、休憩中だったらしい。
わたしは、運転席の彼に手を振って見送った。
エフハリスト~!!(ありがとう~!!)
・・・ ・・・ ・・・ ・・・
わたしのバスは遅れていた。隣のおじさんが、「バス、遅れてるな!」と独り言。ギリシャのバスは、ほぼ時間通りだからだ。それから、さらに5分ほどして、バスが来た。
バスに乗り、いつも通り、運転手に行き先を告げた。しかし・・・
「スミス山? そんなの、きいたことないな。オレ、知らないし!!」
と、なかば逆ギレ気味の答えが返ってきた。
えええぇぇええぇえーーー!! どういうこと?!(心の中の声)
わたしは、訳がわからなかった。そして、こう思った。
さっきの運転手さんが、このバスの運転手だったら良かったのに!
泣きたくなったけれど、「このバスがスミス山に行くのは間違いない」という、確信はあった。さっきの運転手さんやガイドブックが、間違いなく、このバスがスミス山へ行くことを示していたからだ。
それでは、なぜ、運転手さんは「知らない」と言うのか?
こうしている間にも、どんどんバスは走り続けていた。
実は、わたしがショックで固まっている間に、バスの乗客の間で、スミス山についてのやりとりが行われていた。そして、車中に「このバスはスミス山に行くんじゃない?」「行くと思う」という雰囲気が広がり始め、わたしは乗客の人々に向けて「アクロポリスうんぬん」と話しかけた。と、その瞬間・・・
「なぁーんだ、アクロポリスのことだったのかー! それなら近いよ!」
エ?
ひときわ大きくひびく声。振り向くと、それは運転手さんだった。
目が点・・・とは、古い表現だが、まさにそんな感じだった。
今、思えば笑い話である。ガイドブックは間違っていないけれど、必ずしも、本に載っている名称が地元で通じるわけではないことを学んだ。(その後、他の地域でも同じことがあった)とにかく、バスに乗り合わせた親切な人々のおかげで、わたしは困った状況を切り抜けることができたのだった。
しばらくして、「ほら、ここだよ」と運転手さんに声をかけられ、わたしは、無事、目的地で降りることができた。運転手さんは、「遺跡はあっちだよ」と言うように、ある方角を指さすと、そのまま走り去って行った。