サントワイン到着
しばらく走ると、車掌より「サントワイン到着」を告げられた。バスから降りると車掌が何か叫んでいる。見ると「あっちだよ」と親切にも、バスの搭乗口から指をさしてくれていた。
バスが行ってしまうと、静けさにポツンと残された。サントワインは大きなワイナリーときいていたが、バスを降りたのはわたし一人である。
サントワインはすぐにわかった。白い大きな建物、広々とした敷地、そして大きな駐車場には観光バスまで並んでいる。繁盛していた。
大きなガラスがはめ込まれた建物に入ると、大勢の客がいた。ツアー客がワインのレクチャーを受けていたり、テーブルを囲んでワインを楽しんでいる。
こんなに人がいたんだ!
先ほどまでの、寂しげな感じは吹き飛んで、圧倒された。
個人で来たのは、わたしくらいかな・・・?
まわりの雰囲気におされ、わたしも早く試飲をしたくて仕方なかったが、どうやって席に着き、どうやって注文したらよいのかわからなかった。
風になる
インフォメーション・デスクを見つけ尋ねてみると、「どこでも好きな席に座れば、ウェイターが注文取りに来ますよ」とのことだった。また、ワイナリー見学ができることもあり、その場で1時間後のツアーを申し込んだ。それまでワインを楽しもうと思う。
準備が整うと、わたしは屋外のテラス席をめざした。フロアを抜け、どこまでも続く青い空、青い海を目指す!
うわー!!
テンション上がる、上がる!! なんという解放感!!
それにしても、風がはんぱなく強かった。先ほどのアクロティリ遺跡やレッドビーチでは、ほぼ無風だったのに・・・。サントリーニでは島の西側にあたる絶壁側が強風スポットなのだろう。
立ち止まって遥か沖を眺める。風はビュービュー吹いてくる。直射日光を浴びているにもかかわらず、風のおかげで爽快だ。風は、Tシャツのすそ、袖口をはげしく震わし、わたしの髪を勢いよく後ろに跳ね上げ、吹き抜けていった。
風になったぞー
全身、風で洗われていくようだった。
そして雲
ふと見ると、目の前の崖付近に雲が浮かんでいた。サントワインのテラスから見下ろせる。そう、雲はこんな低い位置にも生じていたのだ。
そうこうするうちに、風に吹かれて薄くなった雲が、形を変えながら真っ直ぐこちらに向かってくるのが見えた。
うわぁ!雲に入ってく・・・
わたしはその瞬間を楽しんだ。
雲は正面から来て、テラスを通り抜けていった。
わー!
一瞬、霧に包まれたようになった。面白い体験をした。
試飲、なつかしい思い出
さて、そろそろ試飲をしようと席に着く。メニューが置いてある。試飲といっても単独から複数セットになったものまでいろいろある。「ワイン6種の試飲とおつまみセット」を頼んでいる人を屋内席で見かけたが、わたしにはちょっと無理そうかな・・・。
そこで一番人気はどれか、ウェイターさんに尋ねると「ヴィンサント」とのことだった。わたしは「ヴィンサント」の試飲バージョンを注文した。
美しい色。一口飲んで思い出したお酒があった。「ゴンザレスビアスのソレラ1847」、シェリー酒だ。初めて飲んだのは、はるか昔。スペインのロンダで母と旅行した時に、ウェイターさんが選んでくれたお酒だった。ただ甘いだけではない、独特の豊かな香りと深さに驚いたものである。冷やして飲むといい。
ゴンザレスビアスというとティオペペが有名であるが、わたしは飲んで以来この甘いシェリー酒のとりこになったのだった。しかし、日本でティオペペを見ることはあっても、この「ソレラ1847」を酒屋で見ることはなかった。東京のスペインバルで頂いたのが最後になっている。それも、メニューにはなかったところ、お店のご厚意によって頂けたのであった・・・。(※今は通販で購入できるようです※)
ヴィンサントはこんな昔の出来事を思い出させてくれた。良いお酒に出会えたことが嬉しい。感慨にふけりながら飲んでいると、ウェイターが2人来た。
ねえ、キミ、ギリシャ語話すんだって?!
えっえぇ?! いや、そのぅ・・・ほんの少~し(汗)
「話す」なんて言えたレベルじゃない。単語を少し暗記しただけ・・・!!それでも、ギリシャ人はとても無邪気に喜ぶ。
せっかく来てくれたので、ヴィンサントを飲んだら、甘いシェリー酒のことを思い出したよ、と言ってみた。ワイナリーに勤める彼らが何と言うか興味津々だったが、首をかしげると「シェリー酒は飲んだことがないから、わからないけど・・・」とのこと。
残念!!
その代わり、「ヴィンサントは干しブドウの実から作るんですよ」と教えてくれた。それで納得!!やはり特別なワインなのだ。
ワイナリー見学
1時間が過ぎて、待ち合わせ場所(インフォメーション・デスク前)に行くと、ガイドさんと6名の参加者が集まった。
えぇ?!
わたしは、昔行った、スペインのゴンザレスビアス社のワイナリー見学のようなものを想像していた。大勢の参加者が言語別のイヤホンを渡され、ぞろぞろ長い列になって歩いていくような・・・(途中、遊園地の電車のような乗り物に乗せられたりした)。
しかし、ここのワイナリーは生身のガイドさんがつく。そして参加者は極端に少ない。
うわー、英語ヤバイな・・・
ここまできて、後戻りはできない。参加者はインドからカップルの2人、南米からカラフルな服装の女子3人、そしてわたしだった。ガイドさんはにこやかに挨拶し、場が和んだところで出発。
ガイドさんは時々笑いを交えて説明してくれたり、英語の速度についても気を配ってくれたりした。ただ、5月中旬(旅行時)はまだブドウの収穫時期ではないらしく、ブドウのないガラーンとした施設を見てまわることになった。屋内に入ると薄暗く、節電でほとんど明かりは点いていない。もちろん機械も動いてはおらず、暗闇にひっそりとしていた。
ようやく写真のとれる場所にたどりつく。酒樽からはアルコールの香りが漂ってきて、やっとワイナリー見学っぽくなった。(ここでガイドさんに写真をとって頂いた)
そして、最後にガイドさんから締めの挨拶があって、グループは解散となった。
さらに試飲
酒蔵から出ると駐車場近くに出た。外の明るさがまぶしい。歩いていくと、なんと白いドレスをきた花嫁さんが駐車場にいた。写真撮影かな・・・? とっても幸せそう!
まだバスの便はありそうなので、さらに試飲をすることにした。アシルティコの白ワインを飲んでみたかった。
うっ、辛口!
しかも、久々の白ワイン。過去のスペイン滞在がきっかけで、ワインは「赤」の習慣がついていた。舌が驚いている。
うーん、わたしはやっぱり「赤」かな・・・
おみやげショップ
そして、そしてお買い物ターイム!!お気に入りのヴィンサントは空港で買うことに決めていた。しかし、よーく見るとヴィンサントのかわいい100mlくらいの小瓶も売られていた。見てると欲しくなってくる。これなら機内のリキッド制限もクリアするだろうし、リュックに入れても大丈夫そう・・・。しかし、まだ旅は始まったばかり、荷物は軽いにこしたことないな・・・と考え直し、やっぱり空港で買うことにした。
色とりどりのパッケージに包まれたお菓子が並んでいたが、中でも白ごまをハチミツで固めたギリシャ菓子「パステリ」に目を奪われた。今までもスーパーで見つけては買っていたが、ここのはちょっと高級感があった。これはおみやげに良い!!
そして、トマトのディップを発見。これはサントリーニのトマトを使っている。ここの強烈な太陽に照らされて育ったトマトは、さぞかし味も濃く美味しいことだろう!朝食や小腹が空いた時にラスクに付けて食べてみようと思った。即決!!(詳細はこちら)
ヤニス、ふたたび!!
「買う・買わない」に限らず、いろいろな品を見てまわるのは楽しい。カゴを片手に店の中をぐるぐるまわっていた。そして、商品棚の角を曲がったとたん、前から来た人が「ワァッ!」と叫んだ。
えっ?!
見ると、白人の男性が目をまん丸にして笑っている。そして「ワーオ!」と叫んで手を差し出してきた。わたしは、思わずつられて握手をしてしまった!!! が、しかし・・・
誰だろう・・・・?
と、ポカンとしていた。が、次の瞬間、遅れて彼がヤニスだとわかった。もう、全てがおかしくて、おかしくて笑いが止まらなかった。
コンボロイは車に置いてきた、と彼は言う。わたしは、タクシーの運転手なのか、と尋ねてみたが、彼はノーと言う。質問を重ねたが、時間切れ。じゃあね、とヤニスは行ってしまった。
少しして、ヤニスのお客さんがショップに現れた。インド人風の若い男女、新婚さんだろうか。とても裕福そうに見える。客の男性がオリーブ油の缶を手に取ると、ヤニスは別のオリーブ油をさっと指し示し「品質はこちらの方がいいですよ」と的確なアドバイスをした。鮮やかだったが、慎み深い物言いであった。そして、それは、きれいな発音の、美しい英語でもあった。
ヤニスは、じっとお客さんを見守り、静かに寄り添っている。まるで別人だった。
気がつくと、その横顔にじっと見惚れている自分がいた・・・
寒さとの闘い パート2
レジで会計を済ませる際に、帰りのバス停の場所を確認した。親切にも、レジの女性はポストイットに地図を描いてくれた。彼女のおかげでバス停までは迷わず行けた。まだ外は暗くなかったが、思ったよりサントワインで多くの時間を費やしてしまったようだ。
ワイナリー見学で一緒だったインド人のカップルが先着だった。しばらくして、1人増え、2人増え、そしてワイナリー見学で一緒だったカラフルな服装の南米女子3人組も来た。
実は、いつバスが来るのか、正確な時間はわからなかったが、アクロティリ発/フィラ行の最終バスが残っているのはわかっていた。そして、個人的には(というか、この時、バス待ちをしていた全員が)一刻も早いバスの到着を望んでいた。と言うのも、ものすごい強風が吹き荒れ、太陽の熱が弱まった夕刻においては、上着を着てもかなりの寒さだったからだ。
一度、2台続けてタクシーが通りすぎた。タクシーの運転手のお兄さんは、スピードを落とし、一列に並んで寒風に耐えるわたしたち、一人一人の顔をなめるように見て、「乗る・乗らない」の意思を確認した。誰も、タクシーを停めようとしなかった。
そして、刻々と太陽は沈んでいき、凄まじい寒さとの闘いが始まった。昼間は溶けて蒸発してしまいそうな暑さで、パーカーを持ち歩くなんてどうかしている!と思ったが、デロス島での教訓や、ホテルのDさんの忠告通り、上着を持ち歩いていて正解だった。しかし、パーカーを着ても体温を保てず、一瞬も止むことのない冷たい暴風にさらされ、みるみる熱を奪われていった。
ああ!
過去の経験から、日本人(日本人女性)は寒さに弱い人種だと思っている。実際、わたしたちが震え上がるような気温や冷房温度であっても、白人の方達は比較的薄着で平気だったりする。しかし今、その彼らが、腕をこすったり、足踏みをしたり、飛んだり跳ねたりしながら、思い思いのやり方で体力温存に努めていた。もはや、わたしも周りを気にしている場合ではなかった。パーカーの帽子を深くかぶり、チャックを限界まで上げて首元をしめ、両手を袖口の奥に入れると両脇をしめ、風に当たる体表面積を少しでも減らそうと、前かがみになり縮こまった。しばらくして・・・
おい、ちょっと・・・そこの彼女・・・ヤバくないか・・・?
いや、大丈夫だろ・・・寒いからだよ・・・
こんな声が、ヒソヒソ聞こえてきたが、答える余裕はなかった。毬(マリ)のようにぎゅっと身を縮めて耐えるだけだ。
まだ来ない、まだ来ない、バス来な———い!!
みんなの視線はバスを求め、さまよった。
一度バスが来た。かなりの人が道の向こう側までバスを追いかけ走ったが、それは逆方向のバスだった。それほど、みんな切羽詰まっていた。彼らが戻ってくるのを見ながら、あのバスがアクロティリまで行って戻ってくるのか・・・と思うと、心底ガッカリした。まだ当分、時間がかかる・・・
バスが来るまで身はもつだろうか・・・
寒い、寒い、寒い、寒い、寒いいいいいいいいぃぃぃぃ・・・
あと何十分待つのか、と思われたが、思ったより早くバスが来た。フィラの町に着く頃には、体は熱を取り戻しつつあった。ちょうど、学校のプール開き直後の(寒い梅雨空の)プールの後みたいな、懐かしい感覚がした。
食料品店:セルフサービス
ふー、今日はサントリーニの厳しさを知った一日だったなぁ・・・
大変だったが、なぜか、ホテルへの帰り道・・・笑いがこみ上げてきた。そして、途中、水などを買いにセルフサービスへ寄った。品物をレジに持っていくと、あの”おっちゃん”がいた。
おっ、なんでギリシャ語話すんだ?
と言った後、おっちゃんは、あっ、という顔をした。そういや、昨日も来てたな・・・と、どうやら、わたしのことを思い出してくれたらしい。
今日訪れた場所のことをおっちゃんに話す。
ここにはどれくらい滞在するんだい?
んー、あさってまで。明日は「イア」に行くんだ、とおっちゃんに告げる。じゃあ、またね!と店を出た。
おっちゃんは、日に焼けていて貫禄があり、黒色に近い髪の毛は、もじゃもじゃの天然のくせっ毛で、なんだかスペインのフラメンコ歌手を思い出させる。このまま、おっちゃんが手と足でリズムを刻み出し、気持ち良さそうに歌い出したとしても、何の違和感も感じない。面白いもんだな、と思った。
おまけ
この日の夕食は部屋で簡単に、ラスクパンのトマトディップのせを食べた。買って正解!!
サントワインの詳細はこちらです。