ひとり旅日記 ギリシャ

女ひとり旅日記 メテオラ ルサヌ修道院への道で ギリシャの旅96

◆メテオラの地図(日本語は加筆しています)

メテオラ地図

 

ルサヌ修道院へ

無事、ヴァルラーム修道院の見学を終えたわたしは、次の修道院、ルサヌへの長い道のりを歩き始めた。見回してみるも、相変わらず、歩いているのはわたし一人だけで、ポツンとしている。たま~に走り抜けて行く、グループ・ツアーのワゴンやハイヤータクシーを見ては「あー、ここは車道だったんだ」と、思い出すような感じ(笑)。

まあ、一人のほうが気楽かぁー!

と思ったが、修道院の建物は見えないし、案内の標識もなく、だんだん心細くなってきた。しかし、この曲がりくねった道以外に道はない。ということは、反対に、この道を外れなければ修道院にたどり着ける、ということなのだ。

しかしながら、ルサヌへの道中には、なんと、分かれ道があった。ガイドブックの地図を目で追ううちに、わたしはそれを発見した。

「間違えたら引き返して、正しい道を行けば良いじゃん!」と思うけれど、しかしこの場合、この燃え盛る太陽の下では、こういった間違いは、単に体力の消耗を意味するだけでなく、精神的にも、かなりキツい打撃になりうるものだった。

フー!(深呼吸~)

大きな地図

一人、歩くうちに、ふと、疑問がわいてきた。メガロ・メテオロン行きのバスの中で、みんながみんな持っていた、ちょうど新聞1ページぐらいの大きさの地図…

みんな、どこで入手したのだろう?

そう思った。メテオラのあらゆる情報がぎっしり盛り込まれ、中央には奇岩の起伏が立体的に描かれた、迫力ある修道院巡りのカラー地図であり、それは目を引くりっぱなものだった。おそらく、インフォメーションなどに置いてある、無料の地図かと思われたが、しかし、わたしの場合、前日の夜遅くにカランバカ入りし、翌日の朝一番のバスに乗り、結局、インフォメーションなどに行く時間はなかった。

さらに、今までギリシャ旅をしてきて言えることは、現地の詳細な地図(現地のあらゆる情報が盛り込まれたもの)は、宿泊したホテルでもらうことができたのだが、ここメテオラでは、なぜか、手渡されたのはホテルのパンフレットのみであった。

よって、わたしは、ガイドブックに載っている(10センチ四方もない)小さな地図を頼りに、修道院巡りの全行程を歩むこととなったのだった。

下写真:道路脇の野花。ピンクとむらさきの花々が目を楽しませてくれた。

メテオラ 野花

 

鳥のさえずり

(以前にも書いたが)この道を歩いていて、圧倒されたのは、景色ばかりではない。圧倒的だったのは「鳥のさえずり」であった。今までわたしは「鳥のさえずり」とは、「耳を澄まして聴くもの」と思っていた。それが、四方八方から、雪崩(なだれ)のような勢いで、耳の奥深くに勝手に流れ込んでくる。

千重奏、万重奏、億重奏とも言えるような、鳥のさえずりが重なり合い、メテオラの森から上昇してくるのだった。鳥のさえずりを録音したCDを何百枚か、全方向から一度に流したような感じを、ご想像頂くのも良いかもしれない。それらが、一瞬たりとも途切れることはなかった。まさに圧巻。

蝶々の突進

とにかく、肌がジリジリと焼けていくのがわかるような、ものすごい日差しの中、帽子はかぶっていたものの、果たしてそれが役に立っているのだろうか?と、思うくらいの太陽の熱射だった。

しばらく歩くうちに、どこからともなく白い(モンシロチョウのような)蝶々が飛んできたかと思うと、それがわたしに突進してきた。

わっ!

驚いたのは、この飛んできた蝶々が、わたしの手など(皮膚が露出している部分)をねらって飛んできたようで、すぐには離れようとしなかったことだ。手の周りを数秒、飛びまわった後、やっと去っていったのだが、その間に、蝶々に触れられた微妙な感覚が手に残った。

今の…ナニ?!

この瞬間、わたしの頭の中にパッと浮かんだのは「砂漠のラクダ」の話だった。

砂漠の行商人一行(キャラバン)は、夜営前にラクダを解放する。ラクダは重い荷物から解き放たれ、思い思いの方向に散らばり姿が見えなくなるが、しばらくして時間を見計らい、岩塩の塊を砂上に置くと、散らばっていたラクダが全頭、岩塩を舐めに戻ってくる…という話だ。

生きるのに、人も動物も「塩」が欠かせない。それを、キャラバンはラクダをコントロールするのに利用していたわけだが、しかし…

虫も「塩」が欠かせない生き物だったっけ…?

わたしは、この蝶々の一件で、初めて疑問に思った。強烈なギリシャの太陽によって、汗が結晶化し、それを鋭く感知した蝶々が飛んできた…ということなのだろうか? 周りには野花も咲いており、蝶々は花の蜜を吸うこともできたはずだった。

な、なぜ?!

このことは印象深い出来事として、わたしの記憶の片隅に刻まれたのだった。

前進あるのみ

奇岩と豊かな緑…それらは遠い山々のふもとまで続き、その山々の上には、さらにどこまでも続く青空が広がっている。そして、振り返れば、小さくなっていくヴァルラーム修道院が見え、さらにその遠くには、広大な谷底をはさんでメガロ・メテオロン修道院が見えた。

ああ…!

ずいぶん長い道のりを、わたしは歩いて来たんだなぁ…

しみじみ思うと同時に、メガロ・メテオロンにいた、たくさんの人々のことが思い出された。

人々と、完全に切り離されてしまったな…

まるで自分だけが、遠い星に来てしまったかのように感じた。もちろん、そんなのは幻想に過ぎないのだが…

前に進むしかない

わたしは気持ちを新たに、一歩、また一歩、と、歩き出した。

つづく

冒頭写真:ルサヌ修道院付近の眺め

ブログ内で触れた「蝶の塩分摂取の有無」についてですが、蝶は(汗などから)ミネラルを摂取することがある、との情報を複数、ネット上で見つけました。また、実際に「蝶に汗を吸われた」という体験談も複数見かけ、興味深く思いました(笑)。

 

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