再びアクロティリ遺跡
さて、次の目的地はサントワイン!!
レッドビーチからアクロティリ遺跡まで戻り、そこからフィラ行のバスに乗って途中下車をすればいい。が、しかし・・・
バス停がない!
再び、遺跡窓口の女性に助けを請う。すると、「ここに来た時に、降りた場所と同じよ」と言う。「いえいえ、フィラに行きたいんです」と言うと、「バスはUターンして、またここに戻ってくるから同じ場所で大丈夫よ。あ、バスチケットはバスの中で買えるから、心配ご無用~!!」と教えてくれた。親切な人で良かったー、感謝!!
とにかく、いちいち確認することは大事だ。へたすれば、この容赦ない太陽の熱で体がもたないだろう。太陽から身を隠し、冷房の効いたバスの中へ早く避難したい。幸いバスの乗り場付近には、木陰があった。
おしゃべり男
携帯を所持していないため、バスの時刻はわからなかったが、一定の間隔で便はあるはずだった。木陰で涼みながら、ひとり気長に待とうと思う。
静かだな・・・
暑いけれど、平和でのんびりしている。・・・と、どこからともなく一人の男が現れ、携帯を取り出したかと思うと、この平和な静けさを、ド派手に引き裂いた。
げっ・・・
せき止められて、行き場を失ったおしゃべりの虫たちが、一気に彼の口から放出された。人間、空気がなければ、窒息して死んでしまうが、彼の場合、おしゃべりをしなければ、息が詰まって死んでしまうような、そんな感じだった。おしゃべりで生気を取り戻している。しかし・・・しかしながら・・・
なんなんだ?! このマシンガン・トークは・・・!!
せっかく、のんびりしようと思っていたのに!
そう思わずにはいられない。マシンガン・トークだけでもウンザリしていたが、彼の声は大きくて耳障りだった。聞きたくなくても耳に入ってくる。時おり聞こえる大きな笑い声がさらに癪(しゃく)に障った。
もうー、この人、なんなのー?
バスを待っている間中、聞く羽目になるのか・・・とあきらめかけた頃、電話は終わり、静けさが戻っきた。
ふぅ、やっと終わったー! やれやれ!
だが、ホッとするのは早かった。彼は遺跡の真向かいにある駐車場に目を向け、目ざとくも、タクシーの中に運転手を見つけると、嬉々として声をかけ、嬉しそうに話を始めた。
うわっ、は、始まったー、マシンガン・トーク、第二弾!!
そう、彼はひと時も黙っていたくない男だったのだ!!
何をしゃべっているのか、さっぱりわからないが、多分、こんな事をしゃべっていたに違いない。
「遺跡のお客さん待ってるの?」「で、この後どこ走るの?えっ、どこ行くって?」「へぇ、あそこってさぁ・・・」とかなんとか・・・
彼は水を得た魚のように、生き生きと運転手さんと話を続けていたが、しばらくすると運転手さんは「それじゃあ、また」と彼をポツンとあとに残し、フィラ方面へ走り去ってしまった。
シーーーーーーンンンンンンンン
再び静けさが戻ってきた・・・が、このまま終わるわけがない、と思った。だって、しゃべることは、彼の「命」なのだから!
そして思った。次なるターゲットは・・・
・・・!?
そう、どう考えても、わたししかいなかった。他に人影はない。
こみ上げる笑いを我慢できず、下を向いていたわたしは、(このまま)話しかけられるか!と覚悟を決めた。
ヤニス
「ねえ、キミ!どっから来たの?!」
キターーーーーーッ!
おかしくてこらえ切れず、わたしは吹き出しそうな変顔で「日本から」と答えた。彼はヤニスと名乗った。ヤニスはわたしが「日本から来た」ことがわかると、「日本人はいつも”忙しい”と言うんだ」と言ってきた。
「ギリシャはいいでしょう?」と笑った。そして「知り合いに日本人女性がいてね、彼女もさぁ・・・」と話し始めた。彼はひと通りしゃべり終わると・・・
ほら!!
と、コンボロイ(Komboloi)をわたしに差し出し、「これをさわっていると気持ちが落ち着くから、やってごらんよ!」と笑った。
えっ?
彼のフレンドリーさにも感動したが、思いもよらぬタイミングでコンボロイを目にし、二重の意味でわたしは感動した。
TVでやってたやつだー!!
コンボロイ
旅行前、日本でギリシャ情報を集めていたころ、「世界ふれあい街歩き」という番組でミコノス島をやっていた。白い小道に面したカフェに集まるオジサンたちが、数珠(じゅず)のようなものを指ではじいていて、番組の旅人が「それ、なんですか?」と尋ねる場面があった。
その数珠のようなものが、「コンボロイ」なのだ。(冒頭の写真をご覧ください。ナフプリオンの街角で撮ったものです)オジサンたちいわく、ヒマな時、手持ちぶさたな時、気持ちを落ち着けたい時などに、そのコンボロイをいじり、ストレスを解消するそうなのだ。コンボロイは男性の持ち物で、女性はやらないとのことだった。
わたしは、ヤニスのコンボロイを手に取らせてもらった。深緑の模様が美しい、ちょっと渋めの石でできており、使い込んでいる様子が見てとれた。
思ったより一つ一つの石が大きく、存在感がある。男性が使うものだからだろうか? もしくは、はじいた時に「パチン」といい音がするようにだろうか? あっ、両方かな!(笑)
とにかくわたしは貴重な体験をさせてもらった。彼にお礼を言う。
「これ、買って帰るといいよ」とヤニスは言う。確かに、きれいなのでアクセサリーとしても使えるだろう。しかし、わたしは意地悪く「これって女性も使うものなの?」ときいてみた。すると、あいまいな返事が返ってきた。やはり、男性が使うものなのだ。
ヤニス走り去る
そうこうするうちに、遺跡から人が2人出てきた。ヤニスはさっと身を起こし、足早に歩きながら彼らに声をかけた。
どうしたのだろう?
なんと彼らはヤニスのお客様だった。ヤニスは彼らを車に乗せて走り去っていった。わたしは、てっきり彼もバス待ちをしていると思っていたので、突然のなりゆきにポカンとしていた。
ヤニスは走り去る前に、運転席から小さく手を振ってきた。わたしも小さく手を振り返す。
ありがとう! 良い一日を!
いざ、サントワインへ
不思議なもので、ヤニスがいなくなった後は、ぽっかり何かが抜け落ちてしまったような静けさになった。まるで、時間が止まってしまったかのようだ。
しかし、しばらくすると一人、二人と人が集まってきて、わたしの横に並び始めた。
ふー、もうすぐバスが来る
ギロピタを食べた店で見かけた東洋人の若者も来た。彼は携帯を操っており、正確にバスの時刻を見計らって来たようだった。
バスが来て、乗る時に念のため、目的地を確認。大丈夫!!サントワインに行くと言う。
よしっ!!
さあ、絶景のサントワインで、ヴィンサントを片手に優雅に過ごすぞー!!
バスに揺られながら、わたしは期待に胸をふくらませた。