考古学博物館へ
古代劇場の階段を何とか下りきるも、今度は太陽の暑さに耐えきれず、わたしは近くにあった考古学博物館へと、たまらず逃げ込んだ。
医療器具
数ある展示品の中、目に留まったものを写真とともに紹介する。
エピダウロスは、医神アスクレピオスの信仰の地。たくさんの医療器具が展示されていた。
碑文
展示ボードによると、こちらの碑文には、アスクレピオスの奇跡的な治療が記されているという。紀元前350~300年のもの(部分)。アバトン(聖なる仮眠所)の東端に設置された石碑の列に並んでいたものと考えられているそうだ。
こちらは、展示ボードによると、エピダウロスの詩人:イシュロスによる、アポロンとアスクレピオスへの賛歌が刻まれた石碑だそうだ。 紀元前280年頃のもの。(部分)
神話によると、アポロンの子:アスクレピオスは、ケンタウロスの賢者:ケイローンの養育により、医学の才能を発揮し、ついには、死者を生き返らせるまでに至ったが、冥界の神ハデスより「秩序を乱す者」と訴えられ、ゼウスに罰せられた。しかしながら、彼を惜しんだゼウスにより、アスクレピオスは毎夜、夜空で輝く星座(へびつかい座)になった…とのことだ。
こちらは、翼のある馬の浮き彫り。後ろ足はどうなっているのか…?
展示ボードによると、三角形の切妻(破風)型の石碑で、エピダウロスの立法機関からの命(めい)が刻まれているという。翼のある馬の浮き彫りは、ランプサコス(古代ギリシャの植民市、現在のトルコに位置する)の象徴なのだそう。紀元前4世紀のもの。
石像とレリーフ
神々のオンパレード~♪
こちらは、頭部の失われた石像たち。ドレープの表現が見事である。
こちらは、医神アスクレピオスの娘であり、健康の女神でもあるヒュギエイアの像。
ヘビが彼女の肩に巻きついており、父アスクレピオスと同じく、彼女もヘビと関わりがあるようだ。展示ボードによると、この像は、1886年にアスクレピオスの浴場と図書館の複合施設で発見されたとのこと。西暦160年頃のもの。
さあ、この方はどなたでしょう? ヒント:杖。見えにくいかな?
医神アスクレピオスの像。ヘビのからみついた杖は、医療の象徴として世界保健機関(WHO)などに使われている。
別アングル。左手で、ヘビをあやしているようにも見える(笑)。
こちらは、賛辞を受けるアスクレピオス(右奥に座っている)。大理石レリーフの石膏鋳造とのこと。
こちらは、アスクレピオス神殿の周辺で発見された、2つのレリーフ。
展示ボードによると、これらは19世紀末に発見され、石膏鋳造(コピー)が展示されている(オリジナルはアテネの国立考古学博物館所蔵)とのこと。紀元前360年頃の作品で、どちらも玉座に座る男性の姿が描かれていることから、両方とも同じ一つの原型からコピーされたという結論につながり、2人の人物の姿勢と特徴から、この原型はおそらく、パロス島の彫刻家トラシュメデスの作品である、アスクレピオスの金と象牙で作られた神像に他ならない、と考えられているそうだ(神殿の中に安置されていた像の姿は、西暦2世紀にエピダウロスを旅し、実際に像を目撃したパウサニアスの記述や、エピダウロスのコインの絵柄からわかるそうだ。 アスクレピオスは片手で杖を持ち、もう片方の手は蛇の頭に乗せ、隣には犬がいたという。彼の玉座は神話の場面で装飾されていたそうだ)。
アスクレピオス神殿の西側の破風を飾ったアマゾン族の像。
展示ボードによると、この、馬にまたがる女性像は「ギリシャ人とアマゾン族の戦い」の中心人物であった、アマゾンの女王:ペンテシレイアを表わしているそうだ。 ギリシャ神話のアマゾン族は、北部に住む好戦的な女性部族で、戦争の神(軍神):アレスの子孫とのこと。 ギリシャ人がトロイを包囲したとき、アマゾン族はトロイを助けるため援軍に赴いた。 ここでは、女王が、馬の前にひざまずいているギリシャ人を槍で攻撃する構えをとっているそうだ。
しかしながら、細部を見るに、こちらも石膏鋳造かな、と思う。
※展示ボードによると、アスクレピオス神殿を飾っていた彫刻は、ここでは石膏鋳造(コピー)が展示され、オリジナルは、アテネの国立考古学博物館所蔵とのこと。
独り言(ミステリー?)
考古学博物館では、わたしは熱心な見学者となり、カメラをかまえながらも一つ一つ、時間をかけて見入っていたのだが、なぜか途中で集中力が切れ…
あ!
周りを見回すと、朝バスの中で見かけたきりだった「Cさん」が、同じフロアにいるのを発見した。
Cさんは、ある女神像の前で立ち尽くしていた。というのも、女神は、少し高い位置から顔を斜め下に向けていたので、通路のある場所に立って女神像を見上げると、ちょうど、女神とまっすぐ目が合って、見つめ合う形になるようだった。
偶然か、そのピンポイントの位置に立ったCさんは、口元にかすかな微笑みを浮かべながらも、頬を染め、まばたきもできないほど、彼女の顔を一心に見つめ、恍惚としていたのだった。
わたしは、偶然にも、この瞬間を目撃してしまったのだった。
Cさんは、わたしのことを知らず、一方的に、わたしがCさんを知っているだけだったが、なぜか、要所要所でCさんはわたしの前に現れ、このような印象深い出来事が、わたしの脳裏に刻まれていくのだった。
冒頭写真:アスクレピオス神殿の彫刻(石膏鋳造)、エピダウロス考古学博物館にて。