◆メテオラの地図(日本語は加筆しています)
人!(笑)
再び、ルサヌへの道を歩きだすと、後ろから音が聞こえてきた。
ん?!
バイクだ!
長い時間、人から切り離されていたので、わたしは「人が来ること」に、喜びを感じずにはいられなかった。
バイクが通り過ぎていくのを見送ろうと、歩をゆるめ、振り返ると、バイクに乗っていたおじさんも、スピードをゆるめた。そして…
どこに行くんだー?
と、声をかけてきた。わたしが「ルサヌ」の名を告げると、親切にも、彼は、ルサヌへの道を教えてくれた。それは、わたしがガイドブックの地図で把握していた、分かれ道の情報を含み、それが確認できたことで、わたしはとても心強い気持ちになれたのだった。
エフハリストーー!(ありがとう!)
わたしは、走り去っていく彼の後ろ姿に叫んだ。
分かれ道
わたしは、バイクで走り去るおじさんの後ろ姿を見ながら、こう思った。
観光客…じゃないよね、地元の人かな?
ルサヌへの道を知っていたし、メテオラのツーリング好きなおじさんだったのかな…
まあ、どっちでもいっか!(笑)
どんどん歩いて行くと、ついに分かれ道にきた。地図で何度も確認し、おじさんの言葉と照合。たしか、小さな案内板も道にあったと思う。それらを確認して道を進めば、問題はなかった。
万が一、間違えた場合、今来た道を引き返して歩きなおす余力は、とても自分にはないと思った。だから、間違えたら、ルサヌはそのままスキップして、次のアギア・トリアダ修道院を目指そうと思っていた。しかし、しっかり地図で確認すれば、迷うことはなかった。
下り坂の道を行き、ルサヌへの進路を取る。
あー!
遠くにルサヌの姿が見えてきた時、思わず、わたしは心の中で歓声をあげた。
ルサヌ、到着!
この修道院も、崖の階段を上ったところに入口があったが、一番最初に圧倒されたメガロ・メテオロンほどの長さはなかったようなので、それほど足は疲れなかった。しかしながら、毎回、修道院へ入るのに細い橋を渡るのだが、こちらは毎度のことながら、ゾクゾクした。奇岩と奇岩をつなぐ細い橋の下は、深い谷底であり、あまり丈夫そうに見えない橋を渡るのは、スリルがあった。
中庭への扉は閉まっている。美しい模様の扉。
ルサヌ修道院の中庭は、上から眺めることができる。
ミケのお出迎え。
ルサヌ修道院からの絶景
ルサヌ修道院が「尼僧院」であることを確認したのは、旅行後のことだったが、修道院自体の全体の雰囲気も柔らかく、繊細で女性的な感じを受けた。
お土産コーナーに並んでいたお手製の品々も印象的だった。丸くて白い石に、修道院などの絵が器用にペイントされ、文鎮(ぶんちん)やマグネット、指輪に加工されていたりした。また、押し花のラミネート(パウチ)加工のお手製しおりもあり、わたしは絵はがきと共に購入した。
ハプニング
片言のギリシャ語でお会計を済まし、立ち去ろうとした時に…
これ、あげる
と、突然、シスターより声をかけられた。微笑むシスターの手の中には、ご自身で作られたのだろう「しおり」があった。小さな織り機で細長く織られたベースに、蝶々の刺繍をほどこしたものだった。
わたしは、心の底から驚いた。
まったくの思いがけないサプライズであり、それと同時に、わき上がってきた喜びの気持ちをシスターに伝えたい、そう思った。そう思ったけれど…。
肝心な時に言葉は出てこない。結局、やっとのこと、わたしに言えたのは…
エフハリスト!(ありがとう!)
…だった(…涙)。
冒頭写真:ルサヌ修道院(ズーム写真)
おまけ
帰国後、ときどき、ルサヌのシスターを思い出すことがある。
修道院に入ったのは、どのようなキッカケだったのか、また、どのような思いで日々を過ごされてきたのか…。そんなことを思いあぐねるも、もちろん、旅行で通りがかったに過ぎないわたしにとって、とうていわかりえぬ事だったが、しかしながら、シスターは、とても穏やかに年を召された女性だった。
シスターのしおりを見ながら思う、自身の内側や、日々の在り方を見つめ、日々を丁寧に過ごす、静かな毎日…そんな情景が浮かんでくる。