キツネにつままれる?!
やっとの思いでたどり着いたホテルのフロントでは、あろうことか、さっき道ですれ違ったKさんたちが、楽しそうに談笑していた。
(え?! え?! どうして?!)
(ひょっとして…ワープした?!)
驚きで口をパクパクさせているわたしの視線に気づいたのだろう、Kさんは振り返り、
わー! 同じホテルだったんだー!
と、笑いかけてきた。わたしはハッと我に返り、「ほーんと!ビックリしたよー!!」と、しばしこの驚きを分かち合った。Kさんは続けて「わたしのおじいさんがね、ギリシャで…」と興奮気味に少し長い話を始めたので、わたしは両耳を全集中させ、ヒアリングを試みたが、残念ながら(わたしの英語力では)その興味深い話を理解することができなかった(涙)。
そして、わたしのチェックインが終わると、ホテルのオーナーの娘さんが、わたしを部屋に案内してくれた。おそらく、中学生くらいだろうと思うが、よく英語を習得されている娘さんで、ホテルのルールを英語で説明しながらの案内であった。ここで、宿泊代に朝食が含まれていることを知った。
フロントを出る前に、チラッと後ろを振り返ると、Kさんとオーナーの話が大盛り上がりだった。お互いに、声の大きさ、話の勢いが互角で、いい勝負と言ったところ。声高らかな談笑を背に、わたしは「明日に備え、早く寝よ~」と思った。
激甘にふるえた夜
わたしの部屋は角にあり、L字型のバルコニーが付いていた。ホテルの裏には、メテオラの奇岩が、巨大な影となって静かにそびえており、それが夜の闇を一層濃くしているように思えた。ベランダに洗濯物を干しながら、誰もいないガラーンとした通りを見下ろしてみると、本当に静かだった。
さてと!
一段落したところで…
わたしは、テサロニキから遠路はるばる大事に抱えてきた、例のペパーミント色の箱に手を伸ばした。箱を開けると、チョコレート・コーティングでピカピカに光る、テサロニキの郷土菓子パン、ツレキが現れた。
そっと手に取り、まじまじと見つめるも、どこにも傷一つ、汚れ一つない、美しく光るパンがそこにあった。店員さんが、傷つけないように細心の注意を払って、まるで宝石を扱うようにパンを箱に入れていたのを思い出す。それゆえ(もったいないけれども)このパンをかじるには、ためらいを振り払う「勢い」が必要だった。
せーのっ!
パクッ!
うわぁぁぁぁぁぁぁ!
わたしは、食べながら、心の中で叫んだ。
あーーまーーーーーい!
とにかく、甘い、甘い、甘ーいパンだった(笑)。
チョコレートと蜂蜜の味。それ以外の味は、感じることができなかった。パン生地は…というと、予想に反し、固く粗いものだった。テサロニキのパン屋の主人が「千年、二千年の伝統あるパンだ」と言っていたので、昔のパン生地は、こんな感じなのかなぁ、と思った。しかしながら、イタリアのポンペイ(遺跡)のパンはふかふかで美味しそうに見えたけどな~、などと思ったりした。
ふぅー!
なんとか半分ぐらい食べ、ちょっと休憩。
これは、かなりハードだぞ…
尋常ではない甘さで喉がやられる前に、水を飲んだ。まるで、パンが、まるごと蜂蜜でできているかのような甘さ。それに、チョコレートが追い打ちをかける。激甘だったが、それでも最初の2口、3口は、美味しく食べれた。(このパンを一人で完食する人は、よっぽどの甘党だろう)あと半分と思うも、元々のサイズが大きいので、まだ量はかなり残っていた。(しかしながら…結局、わたしは、なんとか完食したのであった!)
メテオラの朝
前日の夜はいろいろあったものの、無事、メテオラの朝を迎えることができた。わたしは、目覚ましを止め、ベッドから起き上がると、さっそくベランダに顔を出してみた。空気はすがすがしく、遠くの山が朝日に照らされ、ほんのり赤く染まっているのが見えた。
わー! 気持ちいー! ☀ ☀ ☀
太陽の光は、今日の修道院めぐりが、すばらしいものになることを確約してくれているようで、幸せな気持ちになった。そして、心も軽やかに、身支度を整えると、わたしは、ホテルの食堂へと下りていった。
冒頭写真:カランバカのホテル:Toti(Totti)のベランダからの眺め(早朝)
ツレキについては、こちらの補足で少し触れていますが、簡単に言いますと、ギリシャでイースターの時期に食されるパンになります。お店で販売されていたり、各家庭で作られたりするそうで、いろいろな味・形・食感があるそうです。ですので、この旅で、わたしが食したツレキは、あくまでも、ほんの一例に過ぎないことを、お心に留めて頂ければ幸いです。