初めまして、フィラの絶景
美しい家々に見とれているうちに、いつのまにか教会のある広場に出くわした。急に人口密度が増す。
あっ、左に見えるのは、ホテル・アトランティス!
たしか、ガイドブックに出ていた高級ホテルだ。
・・・と、いうことは!
さらに近づいていくと、団体旅行客の姿があった。
間違いない、とうとう、ここまで来たのだ!
はやる心を抑え、人々のいる方へ近づいていく。
おおー!
目の前に、ガイドブックや雑誌で何度も見た、憧れの風景が広がった。遠くまで弧を描いて続くサントリーニの断崖、目の前にはネア・カメニ、そしてそのはるか向こうには水平線・・・。この雄大な景色をバックにフィラのかわいらしい町が広がる。
海に向けて立つふしぎなドア・・・、海へと続くような階段・・・。
こんな夢のような場所が、本当に実在するんだ!と、驚かずにはいられなかった。
その頃には雨はあがっていたが、相変わらず空はくもっている。だが、わたしには関係なかった。
サントリーニは特別な場所!!
深呼吸し、我に返る。足の向くまま、気の向くままに歩いてみる。
海沿いの崖に連なる建物。
断崖沿いの道をどんどん上って行った。美しい景色に魅了され、もっと、もっとと足が勝手に動く。突き動かされるように、わたしはゆるい坂道を夢中で上がっていった。
しかし、しばらくすると急激にお腹が空いてきた。考えてみれば、朝、ミコノス島で買ったパンを食べたきりだ。お昼をとっくに過ぎた、中途半端な時間であったが、お腹のアラームは鳴りやまなかった。
断崖沿いのレストラン
眺めの良いレストランは高そうだな・・・
いくつかレストランを見おくり、疲れてきたところで、レストランの客呼び込みのお兄さんが、つまらなそうにしているのが目に入った。この時間、客はあまりいないだろうし、それに、路地の一番奥にあるレストランだったので、なかなか人がここまで来ないのかもしれない。
入り口がほの暗い、小さくて狭そうなレストランだった。ま、景色はなくても料理が美味しくてリーズナブルなら問題はない。メニューを見てみた。なかなかボリュームがありそうだ。
呼び込みのお兄さんに聞いてみる。
こんなにたくさんは食べられないし、今、肉を食べる気分じゃないのだ、と言うと、それなら中にもメニューがあるから見てみたら?と言う。わかった、と店の中に入った。
きちんと制服をきたウェイターが数人おり、奥へ案内されると・・・
えっ?!
明るい空間が広がる。
なんと、テラス席もある、りっぱなレストランだった。暗くて狭いのは入り口だけだったのだ。
わたしは、テラス席ではなく、窓ガラスのはまった席に案内された。思いがけず、高級レストランで食事をすることとなり、驚きの展開であった。注文は迷った末、気になっていたぶどうの葉で包んだご飯(お米)料理とビールをジョッキで頼んだ。
食レポ・猫の目のような天気
うわー!サントリーニ初日、いきなり高級レストランで食事だー!
なるようになれー!!
はじけたわたしは、ビールでのどを潤した。・・・と、何とも上品な料理が出てきた。
鮮やかなオレンジの輪切りを中央にすえ、その周りに放射線状にぶどうの葉包みがきれいに並べられていた。こんな演出をするのか、と感心した。ガイドブックによると、ドルマーデスという料理らしい。
窓の外はくもり。船が眼下に見える。
上品にナイフとフォークを使って食べるも、とても美味しかった。ぶどうの葉を食べるとは、全く想像がつかないが、全く抵抗なくナイフで切ることができる。
一口大のドルマーデスを口に入れると、ひんやりとして”おや?”となる。そして、やさしい~やさしい~ビネガーの風味とハーブの香りがふっと鼻に抜ける。驚きだった。「繊細」という言葉が頭に浮かぶ。ほんの少し、微かな辛味もあるかな、という感じ。
ガイドブックを見ると前菜の部類に入るようだ。なるほど、こうした繊細な味の料理は、味がしっかりしたメインディッシュの後には食べられないだろう。
それぞれの味がほんのりと、主張しすぎず調和している。温度管理もすばらしい。
ぶどうの葉については、ゴワゴワ感があるのでは?と思ったが、まったく問題はなかった。言われなければ、ぶどうの葉を食べているとは夢にも思わないだろう。ぶどうの葉独特の香りやクセといったものもない。あっという間に完食してしまった。
ここでやめておくべきか?
しかし、まだまだ食べられそうだったし、欲も出てきた。イカのフライが美味しいと誰かが言っていたと思い出し、わたし担当のウェイターのお兄さんに追加注文をした。
外はくもっていたのだが、雨が降ってきた。・・・と、風がびゅーと吹き、雲が吹き飛ばされていくのがよく見えた。そして、さらに風は強くなり、テラス席で一人お茶をしていたお姉さんがたまらず席を移動してきた。次の瞬間・・・
ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ!!
雨が窓ガラスを叩きつけた。
うわー、すごい雨!
わたしはのん気にそんなことを思って、イカフライをのんびり待っていられた。サントリーニの変わりやすい天気ゆえ、最初から窓ガラスの席にわたしを案内してくれた、担当のお兄さんのおかげだ。また、ホテルのDさんの言葉も思い出した。”Dさん、本当だね”と一人うなづく。
明日は晴れるといいな・・・
ボーっとしていたら、イカフライが運ばれてきた。素揚げではなく、衣がついたイカリングだ。
写真もそこそこに、口にほおばった。
おーいしーい♥
湯気の立つ、出来立て。アツアツの衣はカリカリ、そして中のイカはやわらかい!まわりのポテトもアツアツで美味しかった。担当のお兄さんに”最高!!”と笑った。
わたしは、気になったドルマーデスの味について質問してみた。なんと、タバスコを使っているそうだ。
そうだったのかぁ!
これを聴いて納得した。たしかに、タバスコには酢が含まれるし、唐辛子も入っている。
そうこうするうちに、イカフライでお腹がいっぱいになる頃には、あんなに激しく降っていた雨も止み、雲間から太陽が顔を出した。
えっ?!
なんと食事中に、嵐が来て去っていったのだ。本当にめまぐるしく天気は変わっていく。
とにかく晴れて良かった!
面白かったレストランのお兄さん
お勘定をする前に、担当のお兄さんに写真を撮ってもらった。デジカメの画像を確認すると・・・
あれ?! わたしがいない?!
えぇっ?!
ビックリして大笑い。
わたし、どこ行ったの?!と思ったが・・・
なんとお兄さんは、こっそりと最後に人物抜きの写真を撮っていたのだ。サービス精神あふれた、面白いレストランのお兄さんだった。
ドルマーデス(ぶどうの葉包み)の缶詰がアテネの空港で売っていました。
味が繊細なので、味付けの濃いものを食べる前に、前菜として食べるのがお勧めです。すっきりした白ワインでも合いそうです。
個人的な感想としては、現地レストランで食べたドルマーデスの方が、風味が豊かだった気がしますが、珍しいお土産として興味ひかれる一品です。