宮殿跡の東側へ
宮殿跡を越え、さらに奥地へ歩いて行くも、景色はそう変わらない。枯草の間から古代の石跡が見え隠れする…そんな景色が続く。
展示ボードによると、宮殿が破壊された後も、長期にわたって人々がここに住み続けたそうで、大量の土器や、お墓、建物跡がみつかったそうだ。宮殿の中庭では、幾何学様式期の集落跡(紀元前9~8世紀)が発見されたり、丘の頂上では、アルカイック時代 (紀元前7世紀後半)の神殿跡が見つかったりしたそう。この神殿からは、ユニークなレリーフのほか、ダイダロス様式の女性像の頭部も見つかったそうである。また、後のヘレニズム時代の神殿は、紀元前3世紀初頭に、アルカイック時代の神殿の基礎の上に建てられたため、その簡素なデザインが引き継がれたそうである。アテナ神またはヘラ神が、これら両方の神殿で崇拝されていたとのこと…。
いろいろな時代の遺跡が積み重なる中、わたしは、ただ歩き回るだけであったが、発掘は複雑を極め、本当に大変だったのだな…と思いをめぐらす。
下写真:宮殿跡の東側。(おそらく)職人の工房跡~柱の家辺り
宮殿跡の東側は、建物が密集している。展示ボードの説明によると、まず、職人の工房地区があったそうだ。ほぼ正方形の敷地に立つ、広大な複合建築物だったそうで、北西の角に階段がある、2階建てだったそうだ。現在残るのは、基礎部分のみ。狭い中庭の両側に2列の部屋があり、その北端が入り口であった。発掘された象牙の未完成品、原材料、金箔、半貴石の残骸などが出土したことから「職人の工房」と、みなされている。年代は紀元前13世紀後半にさかのぼるも、同世紀の末には、大火によって焼失してしまったそう。
歩き回るうちに、親切な外国の女性から「そっちに柱の跡があったわよ」と、教えてもらった。わからないなりに、よく動き回っていたので、柱を探し回っているように見えたのかもしれない。
下写真:柱の家の列柱跡
展示ボードの説明によると、柱の家の名前は、中庭にある列柱に由来。正面玄関があった北西の角には、礫岩(れきがん)の扉の枠と敷居が残されているとのこと。さらに南寄りにある地下倉庫では、商業用のstirrup jar(*上部に取っ手が付いたミケーネ時代の壺の一種*)(そのうちの1つには銘が刻まれていた)や、線文字Bの平板が発見されたとのこと。 紀元前13世紀後半に建てられるも、同世紀の末に火災により焼失してしまったそうだ。
以下、東側斜面の建物跡の写真。
例えば…であるが(賛否両論あるものの)クレタ島のクノッソス宮殿跡のように、再建された柱や、レプリカの壁画が少しでもあればな…なんて気もしてしまう。石がゴロゴロ、岩がゴツゴツ、そして、枯草が生えている風景は変わらない。
ここ、ミケーネでは、想像力のたくましさが要求される。
東側斜面の行きどまりで
さて、宮殿跡(頂上)を越え、東側の斜面を下り始めてからというもの、涼しい風はピタッと止んでしまい、暑さは増すばかりとなっている。山の反対側には、風は来ないのだ。
どんどん斜面を下って行くと、下り切った場所に、奇妙な石壁がそびえていた。
中をのぞくと、こんな感じ。
ガイドブックによると、これは「出陣の門(裏門)」。人々はここから、敵兵に見つからないよう、城塞を出入りできたそうだ。
さらに上を見上げると…
わー、迫力!
岩が落ちてきそうで怖い気もするが、このような石のアーチは、コーベリング技法という、れっきとした石積みの方法が用いられているそうだ。
出陣の門近くの石壁。
そして、貯水池。
近辺には、なにやら地下に続く階段が…。
展示ボードによると、地下に貯水場跡があるそうだ。地下へ続く石積はコーべリング技法が用いられているそうで、石積は城塞の内部から始まり、城塞の壁を斜めに突き抜けて、城外の地下へ続いているそうだ。階段には、折り返しの部分に、2つの踊り場がある。深さ18メートルの通路の先端には、四角形の屋根付き立坑があり、城外にある天然の泉から、粘土製の導管で引いた水を溜めていたそうだ。この地下水路は城塞への継続的な水の供給を確保し、城壁の北東部分を拡張する根本的理由であったとのこと。
ここには、柵がないので、見学者は中へ入ることができる。
中は真っ暗で、照明はなさそう。階段を下った先の、小さな石門が見えるあたりが、おそらく1つ目の踊り場なのだろう。太陽の光が届いているのは、その辺りまでだ。
先ほど、見学者グループがドヤドヤと出てきたのだが、その後、周辺にいるのは、わたし一人きりになってしまった。
誰も来ない…
入った途端、岩が落ちてきて、入口をふさがれてしまったらどうしよう!!などと、ドキドキするも、わたしは覚悟を決め、足を踏み出した。
岩の迫力!!(↓)
結局、スマホも、懐中電灯も持っていないわたしは、1番目の踊り場まで降りるので精一杯だった。
冒頭写真:ミケーネの地下貯水場跡への通路から入口を見上げた光景。