◆メテオラの地図(日本語は加筆しています)
落とし主!?
奇岩の上で絶景を楽しみ、持参のパステリ(ゴマをハチミツで固めたギリシャのお菓子)で小腹を満たした後、すっかり気分転換できたわたしは、再び、アギア・トリアダ修道院を目指すべく、車道に戻ろうとした。
すると、どこからともなく、風鈴よりも少し低い、鈴の音が聞こえてきた。
なんだろう?
車道のすぐ下の崖を見ると、ヤギが数頭、険しい斜面を歩いているのが見えた。
わっ、ヤギだー!
鈴の音は、ヤギの首輪についている鈴の音だったのだ。写真を撮っているうちに、だんだんとヤギの数は増えていき、なんと、彼らは崖を乗り越え、コンクリートの車道へと登ってきた。
わっ!!
もしかして…こっち来る?!
写真どころではない! わたしは、奇岩の上に避難した。こうしているうちにも、ヤギはガードレールの隙間から、どんどん車道に登ってきた。
気づくと、車道の反対側もヤギであふれかえっており、辺りは鈴の音と、今まで聞いたことのない重低音「バリバリバリ…モリモリモリ…」でいっぱいになった。
わたしは、この重低音が一体何なのか、不思議に思ったが、ヤギたちの様子を見て合点した。彼らは辺りに生えている草を引きちぎり、強靭な歯でその草をかみ砕きながら、前進していたのだ。わたしは、草をはむ音が、ヤギも大群になることで、こんなにも迫力を増すのか…と驚き、感心した。
辺りを見回すと、ヤギの群れを率いている男性がいた。
メテオラで放牧かぁ…
しばらく休んでヤギを見送りながら、思った。
こんな光景が見られるとは、ラッキーだな!
そして、ヤギたちを見ながら、そういえば、道中、何らかの動物の「落とし物」が道ばたに落ちていたなぁ…と思い出した。そうだ! 犯人は「ヤギ」だったのだ。
歩き組との出会い
ヤギを見送った後、再びウォーキングを開始する。途中、2台のバイクがわたしを追い抜いていった。たちまち姿が見えなくなっていく様子に、車でメテオラを巡るのも良いが、バイクも簡単で良いなと思った。
一人歩き続け、アギア・トリアダ修道院が、やっと遠くに見えてきた頃、なんと、はるか前方から人が歩いてくるのが見えた! わたしのように、メテオラを徒歩でめぐる人間に会うのは、これが初めてであり、胸が高鳴った。早く言葉を交わしたくて、ウズウズする!
お互いの距離が縮まってくると、前から歩いてくるのは、白人の若い女性であるのがわかった。そして、やっと近づいて、言葉を交わせる距離になった時、彼女は開口一番に「この修道院、閉まってたわよ!」と、親切にも、わたしに情報を共有してくれたのだった。
実を言うと、その日がアギア・トリアダ修道院の定休日だったのは、ガイドブックを見て知っていたので、驚きはしなかった。しかしながら、声をかけてくれた彼女の気持ちが嬉しかった。
二言三言話した後、なぜか彼女は「カランバカ」と標識が出ている車道へ行こうとした。
(え?!)
わたしはあわてて…
町に帰っちゃうの?
と、彼女に尋ねると「イエス」と言う。わたしは、彼女ともう少し、話がしたかったが、いろいろな思いがいっぺんにわき上がり、言葉に詰まってしまった。彼女は歩き去ろうとしたが、わたしが何か言いたそうにしているのを感じ取ったのだろう、一言「I don’t mind.」と言い残し、去っていった。
ここで、彼女が町へUターンすることに驚いたが、しかし、ガイドブックの地図を見る限り、彼女が選んだ道は、かなりの遠回りになるように思えた。町へUターンするならば(おそらく)アギア・トリアダ修道院付近から出ているトレッキングコースが最短なのでは?とわたしには感じられた。しかし、彼女がトレッキングコースのことを知らないはずはないように思えたし、もしくは、修道院の定休日には、トレッキングコースもクローズしてしまうのか?(それで引き返してきたのか?)…と思ったり、とにかく、頭の中でごちゃごちゃ考えてしまい、スッキリしなかった。
さらに、わたしが気になっていたのは、真っ赤に焼けていた、彼女のむき出しの両肩だった。確かにあれでは、修道院めぐりは続けられないかも…と思う。彼女が無事、町に帰還し、適切な処置を受けられますように、と祈った。
冒頭写真:メテオラ、道ばたで草をはむ放牧されたヤギ