ハプニング
昼食後、チェックアウトのため、いったんホテルに戻った。部屋の前でホテルのスタッフ(X)さんに会う。
お世話になったお礼を言うと、Xさんは「一つ、聞いてみたいことがあるんだけど・・・」と少し思いつめた様子で言ってきた。
何だろう、と思っていると、「”日本人は離婚しない”って・・・本当なの?」と言う。
彼女の質問に面食らい、わたしは言葉を失った。
一体、誰がそんなことを・・・?!
尋ねてみると、ホテルに泊まった、年配の日本人男性だ、と言う。
なるほど・・・
たしかに、年配の世代にとってはそうなのかもしれない・・・
しかし・・・
「昔はそうだったかもしれないけれど、今や時代は変わり、離婚は増えているんだよ。」
そう答えると、Xさんは、そうだったのか、という顔をした。そして、疑念が晴れ、納得したのだろう、「実はね・・・」と、彼女は自分の家庭のことを話し出した・・・
ホテル周辺の散策
無事チェックアウトを終わらせると、ホテルに荷物を預かってもらい外に出た。船は夕方に出るのでまだまだ時間がある。
ホテルのベランダから見えた、島の東側を散策してみたくなったのだ。
地図は持たず、どんどん感覚で歩いてみる。あちこち歩き回って、小さな教会を見つけた。とてもかわいらしい。
開いていた門から入ってみると、白い壁にそって花がたくさん咲いており、その奥に墓地が広がっていた。
それから、かなり大回りをしてAgiou Athanasiou通りに戻った。そこで、何回も横目で見ては素通りしていたコーヒーショップに入ってみよう、と思い立った。「coffee island」という名前で黄色い花のマークが目印だ。店の前に価格表が立っており、明確でわかりやすいし、小ぎれいで地元の人が結構入っている。
わたしは早速、フラッペを注文した。手頃な値段であったが、わたしの期待を裏切らない味であった。
食料品店:セルフサービス
フラッペを堪能した後、セルフサービスへ寄った。店は開いている。
良かった!
商品を選びレジへ行こうとした時・・・
バッシイイィィィィィーーーーッ!!
強烈な一撃がわたしの腕を襲った!!
イッタァァァァーーーイ!!!!(泣)
一瞬、何が起きたのかわからなかった。気がつくと、おっちゃんが、いつのまに店の奥から出てきたのか、近くに立ってわたしを睨んでいる!!そして、こう言った。
昨日、来なかったじゃあないか!
え、えぇっ?! 昨日、おっちゃんはわたしが来ると思っていたのか・・・いいや、待てよ!昨日は店が閉まっていたんじゃなかったっけ…?と、思う間に、おっちゃんは、いつもの調子に戻っていた。
さっきのはおっちゃん流の挨拶だったのか・・・それにしては、ずいぶん力がこもっていた。女子なんだから、手加減してよぉー!と心の中でつぶやく。
博物館の話が一段落した後、突然、おっちゃんはこう切り出した。
実は、昔、日本にいてね・・・
「え、えぇ~っ?! 日本のどこ?!」と思わず叫ぶ・・・
〇〇〇カ・・・
とおっちゃんは言った。まだびっくりして口がきけないわたしを、おっちゃんはわたしが疑っていると思ったのか、日本人の名前を言い出した。そして、どうだ、日本人の名前に間違いないだろう?俺の話は本当なんだ、とおっちゃんは目でわたしに語りかけた。
うんうん!おっちゃんの話は本当だってわかってるよ、もちろん!と、わたしも無言でうなづいてみせた。
一瞬、おっちゃんの顔が懐かしさでゆるみ、かの地で一体どんなドラマがあったのだろう、と思わずにいられなかった。
おっちゃんに出身地を聞かれ、横浜と答える。東京から近いしピレウスみたいな大きな港があるんだよー、と答えるも、ヨコハマ? ヨコハマ・・・?うーん、聞いたことないなぁ、コウベならわかるけど、と言われてしまった(泣)。
それから話題が変わり、「あっ! そういや、フィロステファニには行ったのか?」と、わたしのサントリーニ観光に対する、おっちゃんの抜き打ちチェックが始まった。おっちゃんの勢いに押されて、わたしは思わず「うん、フィラから歩いて行ったよ」と言ってしまった。おっちゃんは、それを聞いて「よし!」と満足げな顔をしたが、正確には、「通り過ぎた」と言うべきだった。崖の道沿いを散策しただけで、町まで足を踏み入れなかったからだ。しかし、この後、わたしが「歩いて行った」をギリシャ語で言ったため、ギリシャ語のレクチャーが始まってしまった。
そうこうしているうちに、急におっちゃんのおしゃべりが止まり、おっちゃんがわたしの後ろを見ているのに気付いた。ふり返ると白人の女の子が会計しに来ていた。わたしはさっと横に飛びのいた。・・・そうだ、ここは、おっちゃんのお店の中だったのだ・・・と、わたしはわれに返った。
おっちゃんに、次はどこ行くんだ、ときかれ、おおまかな旅の予定を話した。そして、今日の夕方の船で、サントリーニを旅立つことを告げた。おっちゃんは、「・・・気をつけるんだぞ!良い旅を・・・」と言ったあと、パッと顔を背け、そのままスタスタと店の奥へと姿を消してしまった。
あっ・・・
わたしの声は声にならなかった。なすすべもなく、動けなかった。一人残されたお店の中で、ただ突っ立って、こみ上げてくるものをこらえた。
わたしは、フィロステファニの町を散策すべきだったんだなぁ・・・と思った。あのおっちゃんが言うのなら間違いないのだから。
Anamnesis City Spa Hotel
時間には、まだまだ余裕があったが、そろそろバスターミナルに行こうと思った。ホテルに預けた荷物を取りに行く。
スタッフのIさんが対応してくれた。良い滞在ができたことをIさんに告げる。これからの旅のルートを聞かれ、大まかに話す。
すると「(クレタ島の)イラクリオンは良いところよ。そこで3年間、ホテルの業務(観光業)について学んだの。」と言う。そして、「ロードス島には行ったことないけれど、すごくきれいな所よ。あなたは、とってもラッキーね!!」とIさんは言った。
若いIさんの言葉に、わたしはうなづく。本当にわたしはラッキーだった。そして、彼女のおかげで、イラクリオン、ロードス島の旅が、いっそう楽しみになった。
わたしは、Iさんに見送られ、ついにホテルをあとにした。