ビーチへ
なんとか無事、カストロ(パラミディの城跡)から地上へ戻れたわたしは、ここから海へ出て、昨日歩いた「海辺の散歩道」を逆に歩いてみよう!と思った。
実は、前日、カストロの登り口付近を通りがかった時に、ビーチへの案内板も見かけていたのだった。ここから海へ出られれば、そのまま「海辺の散歩道」に出られる可能性は高い。万が一、出られなくても、浜辺を散歩して、ここに戻ってくれば良いか、と思う。
案内板の矢印に従い、(先ほどの)小さなカフェを通り過ぎて、坂を上っていくと、駐車場に出る。
(下写真↓) 駐車場からパラミディの城跡を見上げたところ
このパラミディの城跡を、自分の左側にくるように立つと、右手奥にホテル(廃墟)が見え、正面には松の木々が見える。その正面の松の木々がある方に、海へ下りる入り口がある。そのまま下って行くと、前日、暗くなって行くのをあきらめた、ビーチ・バーに出る。
小石のビーチ
バーは、海を目の前に、ビーチパラソルの下でカウチに寝そべり、軽食やドリンクを楽しむことができそうな、こじんまりとした施設であった。おそらく、着替えや水浴などもできるのだろう。
小さなビーチで、訪れたのが5月末の夕暮れだったからか、人も少なく静かで、波の音を聴きながら、刻々と移り変わっていく空と海の色をウォッチングできるような、そんな場所であった。
さて、水の透明度はどうかな…?
…と、水辺に近づいた時、衝撃が走った。
なんと、ここは「砂」ではなく「小石」でできたビーチだったのだ!
うわー、小石!!
生まれて初めて見る小石のビーチに興奮しつつ、水の透明度にも感動!
この小石のビーチを見た時、女神:アフロディーテを思い出した。たしか、アフロディーテ誕生の地とされる、キプロス島の海の浜辺も、小石のビーチではなかったか!
わたしは、地中海・エーゲ海に、この上なく心が吸い寄せられ、キプロス島も海外旅行の候補地として、いろいろ調べていた時期があったのを思い出した。親近感がわいてくる(笑)。
海水に洗われ、ピカピカに光る石たち。
アイボリー、温かみのあるグレー、薄い黄色にキャラメル色、ココア色、チョコレート色…この天然の色がなんとも美しい。すべすべして、ヒンヤリとした触り心地も、心を落ち着かせてくれる。
ナフプリオン旧市街は、美しさをギュッと詰め込んだ、小さな箱庭のような街、と以前にも形容したが、その小さな箱庭のような街にふさわしい、コンパクトで可愛らしい小石のビーチであった。
タフ・ガイ!
目の前には、一面に海が広がり、その果てには水平線が見える。西側には、藤色にうっすらと霞む山々がつらなり、振り返れば、険しい崖上にカストロ(パラミディの城跡)がそびえたつ。
こんなにも美しい場所であったが、人は数えるほどしかいなかった。
ああ、なんて贅沢なのだろう!
ガイドブックにも、地図のすみっこに小さく載っているくらいだから、日本人は来ないのかもしれない。
あまりにも穏やかなので、目を閉じたら、そのまま瞑想ができそうであった、が…
あっ、
あの人!
わたしの目は、見覚えのある姿を、いち早くキャッチしていた。
実は、カストロ(パラミディの城跡)から下りてくる時に、タッタッタッタッと階段を駆け上がって来る男性がいたのだ。今から行っても、もう、カストロは閉まっているはずだし、変だなと思い、何となく印象に残っていたのだった。
その彼が、小石の浜辺に来て、さっと服を脱ぎ捨てたかと思うと、海パン1枚になり、勢いよく海に飛び込んで泳ぎ出した。
わっ!
その少しも無駄のない彼の動きから、体を鍛えるため自分を追い込み、トレーニングを積み重ねているのがわかった。もしかしたら、タイムをはかっていたのかもしれなかった。
しかしながら!!
わたしが仰天したのは、そんなことではなかった。
彼が、あの恐ろしい崖の階段を、あっという間に「駆け上り、駆け下りてきた」ことに驚愕したのだった。
…わたしが、どんな思いで、あの階段を(やっとこさ)下りてきたことか…
それを思い出すと、寿命が縮み、ふるえる思いがしたが、もちろん、彼には何の関係もないことだった。
海辺の散歩道へ
もっと、このビーチでゆっくりしても良かったが、日没前に、海辺の散歩道を目指すことにした。
小石のビーチが、海辺の散歩道とつながっていれば、そのまま簡単に歩けたのだろうが、調べてみると、途中で、散歩道はビーチよりも上の方に道が離れてしまっていた。よって、いったん松林を上って駐車場に戻ってみた。そして、なんとなく駐車場内をホテル(廃墟)方面に歩いてみると、金網とフェンスが立つ、狭い道への入口が現れた。なんと、その道こそが「海辺の散歩道」であった。
「落石注意」の看板があり、最初はギョッとしたものの、道が閉鎖されているわけでもなく、周囲の人々はかまわず、どんどん歩いて行く。わたしも散歩道に入り、昨日とは逆に、道をたどることにした。
そうこうしている間にも、また、たそがれ時にピッタリな曲が流れていた。メロディアスで、切ない感じの曲を、女性がしっとりと歌いあげている。サビの部分に耳を澄ますと、こんなことを歌っているようだった…
I’ve been searching…searching…I’ve been searching for love…
オォ!!(聴かせるねぇ…)
(わたしは、この歌を気に入ってしまい、帰国後、いろいろと調べてみたのだが、結局、わからずじまいであった。残念!!)
冒頭写真:波打ちぎわ、小石のビーチ、ナフプリオン