カランバカの灯
カランバカの町へバスが着く頃には、もう、すっかり外は暗くなっていた。ささやかながら、街灯やレストランの灯が、このバス一行を歓迎してくれているように見えたのは、きっと気持ちが高ぶっていたからだろう。それに、夜、見知らぬ土地で見る灯ほど、ホッとするものはない。
バスが町のタウンホール手前でいったん停まると、急に車内は、降りる人々で賑やかになった。
奇岩のふもとの、小さな村を想像していたが…思ったより、繁華街の広場はきらびやかに見えた。小さな豆電球で飾られたレストラン、その屋外席では、ディナーの食卓を囲む人々が明るく輝くテーブルランプに浮かび上がり…それが、まるで、映画のスクリーンの向こう側の人々のように、美しく見えた。また、町の中心部にあたる、そのタウンホールには、ザーザーと音を立てる、小さな人工滝まであった。山の中とはいえ、やはり観光地なのだ、と思った。
ホテル探し
ホテルは、テサロニキ滞在中に、ネット予約を済ましてあった。しかしながら、この町のどこにそのホテルがあるのかは、全くわからない。とにかく、適当な場所でバスを降り、あとは、地元の人々に道を尋ねるしかない、と思った。
Kさん(トリカラのバス・ステーションで出会った韓国人の娘さん、以下、Kさんと呼ぶ)に「どこで降りるか、わかるの?」ときかれたが、「うーん、わからない。まあ、誰かにきいてみるよ」と答え、そのままわたしはバスから降りようとした。降車口で振り返ると、Kさんは、バスの運転手さん相手に、英語で例のマシンガン・トーク展開中だった。それは、トリカラでの出来事を思い出させ、瞬間、「プッ」とおかしくなったが、しかしながら、Kさんのたくましさを感じさせるものでもあり、彼女らは彼女らで、何とかやり遂げるだろう、と思った。
適当にバスを降り、ストリート名を確認しつつ、歩きながら2,3人の地元民に道を尋ね、ホテルの方角が分かってきた頃、なんと、前からKさんたちが歩いてきた。わたしはすれ違いざま「ホテル、わかったー?」とKさんに尋ねるも、「うーん、もうちょっと。誰か町の人にきいてみる~! じゃあ、明日、メテオラで~!」とのことだった。
またまた、1本とられる?!
細い道を左折し、しばらく歩くと目指すホテル:Toti(Totti)があった。ホテルに入ろうとしたが、よく見ると、ホテルの入り口らしきドアが3か所あった。どのドアを選べば良いのか、まったく見当つかず、途方にくれたが、とにかく適当にドアを選んで開けるしかなかった。しかし、結局のところ、どのドアも固く施錠され、びくともしなかった。
え?! どうして?!
ホテル、やってない?!(休業?!)
まさか?!
わたしは驚いたが、しかし「休業は、さすがにないだろう!」と、気を取り直した。
さて、どうしたもんかな~…
ふと我に返り、周りを見渡すと、住宅街とはいえ、人っ子一人歩いていなかった。シーンと静まり返って、怖いくらいだった。今すぐにでも、ホテルのオーナーがひょっこり顔を出して、わたしを見つけてくれればいいのに、と思ったが、そんな奇跡は起きそうもなかった。
このまま、立っていても、しょうがない…
そこで、わたしは(ドアには呼び鈴もなかったので)「叫ぶ」という、原始的な手段にかけてみることにした。
ヤァーサァーース!(こーんにちわー!)
カリスペェーーラァーー!(こーんばーんわー!)
シグノォーミィー!(すみませーーん!)
「恥ずかしい」などと言っていられない。静まり返った通りに、声は響く。…と、何度か叫ぶうちに、「ちょっと待ってーー!」と英語で叫ぶ、オーナーらしき女の人の声が聞こえてきた。
やった! 良かったー!
しばらくして、女性がドアのカギを開けてくれ、どうにかホテルに入ることができたのだった(笑)。
フロントに通され、「やれやれ、ふぅー!」と思ったのも束の間だった。先客がおり、何気なく、その方を見ると…
な、なんと、それは、先刻すれ違った”Kさんたち”だった!!
え?! え?! えー?!
わたしは、びっくりして声が出なかった。
冒頭写真:イメージ写真(メテオラ)